海外株式見通し=米国、香港

【米国株】金融システム不安、債務上限問題を乗り切る銘柄は?

 5月第1週の米国市場は、1~3月期預金減少率が高い順に地銀株が売りたたかれ、金融システム不安を増幅させた。これに対し、4日に米金融当局が銀行株の市場操作の可能性を注視していると報じられたことから、米証券取引員会(SEC)によるカラ売り規制が意識されたほか、JPモルガンが5日、一部の地銀の投資判断を「買い」に引き上げたことで足元で株価が暴落していた銘柄が急反発した。

 米地銀の預金流出の受け皿となりやすいのがMMF(マネー・マーケット・ファンド)であり、MMFの利回りは政策金利の利上げが続く限り銀行預金金利に対して有利になりやすい。その意味では、5日発表の4月の米雇用統計で示された強い雇用に伴うインフレ圧力が収まっていない点が懸念される。

 金融システム不安が収まらず、預金金利引き上げや融資条件厳格化の動きが米国経済の景気鈍化につながりやすい面が残るだろう。コスト増を販売価格引き上げで吸収しやすいブランド力の強い生活関連のディフェンシブ銘柄、および米連邦政府の債務上限問題からは金鉱株が注目されやすいだろう。

 以上のような観点からすれば、当面の米国株市場に対する見方は弱気・悲観的に傾きやすいところだが、その一方で、「生成AI(人工知能)」の急速な普及が今後の企業業績に与えるプラスの影響は軽視されるべきではない。半導体チップの中でも、画像処理に係るGPUは、CPUに対して並列計算能力の高さから膨大な演算処理を必要とするAI技術と相性がよく、エヌビディア(NVDA)が恩恵を受けやすい。

 生成AIを実際に動かしていくための具体的な製品として仕上げるには、半導体チップだけでなく、例えば半導体や電子機器の設計作業を自動化するツールやソフトであるEDA(電子設計自動化)が必要不可欠。この分野はシノプシス(SNPS)とケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)の米企業2社中心の寡占市場だ。

【香港株】米輸出規制は中国半導体企業に追い風

 米バイデン政権は昨年10月、大型の対中国半導体輸出規制を発表。オランダに続き、日本政府も今年3月末に先端の半導体製造装置23品目について輸出規制を強化すると発表した。対象となるのは回路幅が14ナノ(ナノは十億分の一)メートル以下の半導体向け装置である。

 実際に米国の規制強化で外国製の半導体製造装置の輸入は滞っている。中国税関総局による半導体製造装置の輸入数量の月次推移(前年同月比)では、昨年7~9月にかけて規制導入前の駆け込み需要により急増していたが、10月以降はマイナスが続く。半導体の輸入量と半導体IC(集積回路)の生産量は、2021年まで拡大していたが、昨年以降は一転して減少。これを受け、中国政府は半導体の製造装置や材料など供給網の整備を加速。半導体大手の国産製造装置採用比率も上昇し、半導体IC生産量の前年同月比もマイナス幅縮小が進む。

 半導体製造装置や材料の大手中国メーカーは、供給網整備を加速したい中国政府の支援を得て合計1兆元超規模の投資に動いており、半導体の米中分断は関連企業にとって商機とみられる。半導体受託生産(ファンドリー)中国最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は昨年7月、高度な微細化プロセスに必要とされるEUV(極端紫外線)露光装置に頼らず既存機器から7ナノメートルプロセスの半導体チップを生産と報じられた。

 ファンドリー第2位の華虹半導体(フアホン・セミコンダクター)は今年1月、無錫で12インチのウエハー対応工場の建設計画を発表。政府系の中国半導体製造装置最大手の北方華創科技集団(NAURA)は半導体製造装置国産化を追い風に昨年度の売上高が前年比52%増、営業利益が同2.3倍に急拡大した。半導体材料メーカーの有研新材料も、生産能力増強に取り組む。米国による貿易制限や投資制限で株価が下落する局面は、逆に投資の好機とみる余地もあるだろう。

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(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)

(写真:123RF)

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