永濱利廣のエコノミックウォッチャー(40)=日銀短観からみる業績動向

コラム

無料

2023/8/2 17:25

 6月日銀短観の大企業調査(金融除く全産業)によれば、2023年度は下期にかけて増収幅が縮小する傾向があるものの、上期・下期とも従来の数値から上方修正されている。一方で、経常利益は大きく引き上げられた22年度の反動で、23年度は伸び率が上期を中心に大幅に下方修正されている。

経常益引き上げ率、紙・パルプや自動車大きい

 22年度の業種別売上高計画の前年比と修正率の結果を見ると、最大の上方修正率となっているのが「対事業所サービス」でプラス10.4%である。それに続くのが「紙・パルプ」の同5.2%、「不動産」の同4.6%だ。

 対事業所向けサービスには、職業紹介・労働者派遣事業が含まれていることから、人手不足や賃上げに伴う労働市場の流動性向上が推測される。紙・パルプや繊維は、これまでのコスト増の価格転嫁が遅れて反映されたと考えられる。

 他方、不動産では、4月に執行部が交代した日銀が当初の想定以上にハト派なスタンスとなったため、早期の金融政策の出口観測が後退したことが想定されている可能性が示唆される。

 6月短観の経常利益計画について、上方修正率が最も大きいのは紙・パルプだ。先述の値上げ効果に加え、木材や原油など輸入原材料価格の低下が大きく寄与したとみられる。

 それに続く「自動車」は、半導体不足の緩和に伴う世界的なペントアップディマンドの顕在化が推察される。「卸売」も利益の上方修正率が高いが、大企業の卸売りには主に商社が含まれるため、一部企業の資産売却益が反映された可能性がある。

 なお、新型コロナウイルスに対する国民の恐怖心が和らいだことで、経済正常化が期待される「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」もそれに続く上方修正となっている。輸入原材料価格の低下に伴うコスト減が期待される素材産業に加え、半導体不足緩和に伴う加工業種、リオープンの恩恵を受けるサービス関連産業の業績の先行きは明るそうだ。

円高前提企業の上方修正期待

 一方、企業の想定為替レートも公表されている。それによれば、大企業における事業計画の前提は1ドル=131.6円、1ユーロ=139.2円。しかし、足元のドル・円レートは140円台を上回っている。今期の為替レートを円高方向に想定している「輸送用機械」「物品賃貸」などだ。

 なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれており、注意が必要だろう。それでも、最も円安の恩恵を受けやすい業種の一つとされる輸送用機械が、1ドル=120円としていることに注目すべきだ。

 今後はロシアのウクライナ侵攻の動向や欧米の景気後退懸念などに伴うリスクオフを通じ、各国中銀がこれまでよりも金融引き締めに後ろ向きな姿勢を示すなどして為替レートの水準が円高方向に進まなければ、為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に、業績予想が修正される可能性がある。

【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。

関連記事

マーケット情報

▲ページTOPへ