ケイファーマ・福島弘明社長に聞く:「中枢神経疾患を重点領域としたiPS創薬推進」

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2024/4/8 9:00

 ケイファーマ(4896)はiPS創薬事業、再生医療事業を手掛ける慶応義塾大学発のバイオベンチャー。ALS(筋委縮性側索硬化症)、脊髄(せきずい)損傷、脳梗塞(こうそく)など、有効な治療法が確立していない中枢神経疾患を重点領域としており、現在はiPS創薬事業で6本、再生医療事業で5本のパイプライン(新薬候補)を持つ。2023年にはALS治療薬候補の「KP2011」について日本国内の権利をアルフレッサファーマに導出した。同社の現状と今後について福島弘明代表取締役社長=写真=に聞いた。

 ――iPS創薬事業とはどのような事業ですか。

 「iPS創薬事業では、病気の患者由来のiPS細胞を用いて疾患の特異的な情報を持つiPS細胞をつくり、それから分化誘導した神経細胞を使って疾患のメカニズムの解析や、薬剤のターゲットとなり得る物質や遺伝子を解析し、治療法や治療薬の開発を目指しています。ALSや、FTD(前頭側頭認知症)、HD(ハンチントン病)などのパイプラインがあります。中でも、ALS治療薬候補の『KP2011』はフェーズ1/2aの医師主導の治験を完了し、日本国内の権利をアルフレッサファーマに導出しました。その契約一時金を計上したことで、前12月期は非連結売上高10億円(前々期はなし)、営業損益3億6600万円の黒字(同3億5300万円の赤字)、純損益2億6000万円の黒字(同3億9200万円の赤字)で、黒字化を達成しました」

 ――iPS創薬事業の今後についてはいかがですか。

 「『KP2011』の導出は現段階で日本におけるものだけです。世界ではバイオ展示会などに出展した上で、国内外の製薬会社とのアライアンス契約交渉を実施し、米国、カナダ、欧州、中国、インド市場への展開に向けて動いているところです。日本のほか、カナダ、欧州、インドでは既に特許を取得し、米国、中国でも特許を申請しています。一方、FTD治療を目指す『KP2021』、HD治療を目指す『KP2032』は千数百もの候補からのスクリーニングを完了し、候補化合物を選定しており、フェーズ1/2臨床試験の準備を行っています。また、難聴治療を目指す『KP2061』は北里大学との共同研究を開始しました。既に候補化合物を選定済みで、最終評価の状況次第で国内フェーズ1/2治験に向けた準備を予定しています」

 ――再生医療事業について教えてください。

 「再生医療は病気や事故で失われた身体の組織をiPS細胞などを用いて再生し、機能回復を目指すものです。当社は神経損傷疾患である脊髄損傷に対して、他家iPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞を移植することで、損傷部位を治療する研究開発を行っています。現在、慶応義塾大学医学部との共同研究において、亜急性期の脊髄損傷の治療を目指す『KP8001』を優先し、医師主導の臨床研究を進めています。また、企業治験開始に向け、商業用の細胞作製のためのCDMO(医薬品開発製造受託機関)を選定しているところです。そのほか、慢性期脊髄損傷、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、慢性期外傷性脳損傷の治療を目指しており、このうち慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、慢性期外傷性脳損傷については大阪医療センターと共同研究しています」

 ――将来のビジョンはいかがですか。

 「中枢神経の再生医療はかつて不可能とされていましたが、当社の創業者であり、取締役CSO(最高戦略責任者)である岡野栄之がヒト脳内の神経幹細胞の存在を示し、神経再生の可能性を見いだしました。それが当社の根幹にあり、ALS治療薬開発と亜急性期脊髄損傷を対象とする再生医療の臨床研究はいずれもiPS細胞を活用した世界初の取り組みになります。研究開発に当たっては『疾患特異的iPS細胞×既存薬』で費用・期間の大幅削減と開発効率の向上を図っており、新薬開発に必要な期間を3~12年、費用を50~60%削減できる可能性があります。順調にいけば、『KP2011』は20年代後半、『KP8011』は30年代前半の発売もあるでしょう。発売後にはロイヤルティー収入を計上できることになります。ALSの市場規模は日本250億円、北米8250億円と大きく、それだけ患者も多いことから、早期の販売を目指したいところです。また、『KP2011』『KP8011』上市までにほかのパイプラインの導出もあり、状況に応じて契約一時金の計上があるでしょう」

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