永濱利廣のエコノミックウオッチャー(49)=短観から見る企業業績予想
企業の前3月期決算の発表が本格化し始めた。東証プライム上場銘柄の開示社数ピークは5月10日で、この日に2割超が集中。その後も大きなヤマ場が続き、新年度の業績予想の全ぼうが今後明らかになる見通しだ。そこで、これに先立ち4月1~2日に公表された3月日銀短観(大企業調査)から、好内容の業種を予想してみたい。
24年度は増収減益計画に
同調査は2月25日~3月31日にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った。金融を除く全産業の半期別売上高の計画は、2024年度はプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも増収計画となっている。一方、経常利益は23年度が前回調査から上方修正となったものの、24年度は減益計画になっている。
このことから、企業は決算発表で24年度の企業業績見通しを慎重に出してくることが予想され、既にそうした傾向がみられる。産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で縮小させながら増収を維持する一方、経常利益については今年度減益計画に転じる姿となっているということである。
ただ、24年度下期の経常利益計画は、製造業の加工業種に限っては増益に転じる方向となっている。22年度下期以降は鉱工業指数の出荷在庫バランスのマイナス局面が続いていることからすれば、24年度下期には景気循環的に上向く見方が製造業の増益計画の後ろ盾になっている可能性がある。
不動産は市況上昇映す
24年度は多くの業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが「不動産」の6.1%。それに続くのが「金属製品」の3.3%、「その他輸送用機械」の3.0%、「生産用機械」の2.8%、「その他情報通信」の2.3%だ。
不動産は都市部を中心とする賃料や不動産価格の上昇が増収計画に寄与していると推察される。また、金属製品、その他輸送用機械、生産用機械についても、投入コスト増に伴う価格転嫁が寄与している可能性が高い。なお、生産用機械は、世界的に生成AI(人工知能)向けの半導体需要が増加していることを受けて、半導体製造装置や電子部品に関連する分野の需要拡大が見込まれている。
一方、前述の5業種で唯一増収増益計画となったその他情報通信は、放送業、インターネット付随サービス業、映像・音声・文字情報制作業などが含まれる。中でも、近年はインターネット付随サービス業が好調に推移しており、特にショッピングサイト運営業およびオークションサイト運営業やウェブコンテンツ配信業がけん引役となっていることが、これまでの売上高推移から推察される。
素材産業や人材、デジタル化に注目
増益率が最も大きいのは、国際的な木材の価格が落ち着いていることで投入コスト低下が期待される「木材・木製品」の3.6%。それに続くのが、人材派遣業を含む「対事業所サービス」の2.5%となっている。こちらは、労働市場の流動性の高まりに加え、今年からさらに労働時間規制が強化されていることなどから、人手不足対応に伴う労働需要の増加が期待されている。それに続くのが、売上高計画も好調なその他情報通信の1.6%だ。
なお、1.3%増益の「物品賃貸」については、直近の特定サービス産業動態統計調査でも昨年のリース契約高が大幅に伸びていることから、堅調な需要を受けて強気な収益計画になった可能性がある。また、0.1%の「石油・石炭」については、化石燃料の原材料コストが昨年度に比べて落ち着いていることに伴うコスト減を見越している可能性がある。
こうしたことから、今期の経常利益見通しで増益が期待される業種としては、増収に加えてコスト減が期待される一部の素材産業に加えて、人手不足や設備投資需要の恩恵を受ける人材派遣やリース業、デジタル化の恩恵を受ける一部情報通信業種などが浮上する。
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【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。
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