ジョンソン英首相は合意なきEU離脱を回避するのか

経済

2019/10/9 10:32

 ジョンソン英首相は7月下旬の首相就任後初めて、9月16-17日の2日間にわたり、ルクセンブルグで、新しいEU(欧州連合)離脱協定の締結を目指し、EU首脳との対面交渉に臨んだ。16日はルクセンブルグのベッテル首相とバルニエEUブレグジット首席交渉官と会談し、翌17日にはEUのドン(首領)でルクセンブルク元首相のユンケルEC(欧州委員会)委員長と会談し、メイ前首相の離脱協定に代わる新提案を伝えた。

 10月末のEU離脱日が迫る中、その前にジョンソン首相はEUにディール(合意)の意向を伝え、協議が決裂した場合の最終手段であるノーディール・ブレグジット(合意なきEU離脱)を“一時封印”した。

 ユンケル委員長は17日のジョンソン首相との会談内容について、翌18日の欧州議会で、「ジョンソン首相には、バックストップ条項(EU離脱後も英領・北アイルランドにEUルールを適用させることでEU加盟国であるアイルランド共和国とのハードボーダーを解消する方法)に感情的な執着はないと伝えた」と述べた一方で、「英国の新提案(バックストップ条項の代案)の具体的内容を文書で示さなければ、首相との協議で進展があったとは何も言えない」とも伝えている。

 ユンケル委員長の発言を受け、英紙デイリー・テレグラフ紙が18日付で、EU筋の話として、「ユンケル委員長が首相に対し、英国の提案はバックストップ条項の代案となるには包括的でなく不十分だと伝え、首相を驚かせた」と報じ、ノーディールの可能性を指摘した。この報道に驚いた英政府は、「EUの情報操作の疑いがある」と、火消しに躍起となったほどだ。

 また、英国の金融先物市場でもノーディール観測が一気に高まった。これはジョンソン首相が16日のルクセンブルグのベッテル首相との会談後、共同記者会見が首相官邸の中庭で、英国のEU離脱に反対する市民が怒号を上げ中で行われることから、急きょ、会見中止を伝えたにもかかわらず、ベッテル首相は単独で会見し、隣の空席となった演壇をおどけて紹介したからだ。

 この共同会見からルクセンブルグ首相の単独会見に切り替わったのを受け、英国メディアがEUによる「計画的な恥辱行為だ」との一斉に非難。すると、ポンド先物取引を行っているロンドンのインターコンチネンタル取引所(ICE)では、ポンドに対するショート・コール(コールオプションを取引相手に売る戦略)の契約枚数が急増し、累計で150万枚と過去最高を記録した。 これを受け、米経済通信社ブルームバーグは19日付電子版で、「市場ではイングランド銀行(BOE)は20年9月までに0.50ポイントの利下げを織り込んだ」と伝えた。これは多くの投資家がノーディールになると判断し、BOEが従来の円滑なEU離脱を前提としたスタンスから一気に利下げスタンスに方向転換することによる損失(ポンド下落)をヘッジしたことを意味する。

 この背景には英下院が9月6日、超党派のEU残留支持派が提出したEU離脱延期法案(ノーディール阻止法案)を可決し、ジョンソン首相は10月19日までにEUと合意できなかった場合、また、合意しても議会が拒否した場合、EU離脱日を20年1月31日まで延長することをEUに要請しなければならなくなったことがある。

 ジョンソン首相は最近、態度を軟化させ、EU離脱延期法を尊重し、EUに離脱日延期を要請すると柔軟な姿勢を示している。しかし、これは表向きで、EUには別の書簡も同時に提出し、英政府としては離脱日を延期する意思がないことを明確に示すことにより、EUに延期要請を拒否させる作戦を検討している。また、EU加盟27国のうち1カ国でも期日延期に拒否権を行使すれば延期を阻止できることから、英政府はハンガリーのオルバン首相への説得工作に動き出している。こうした離脱延期阻止の動きがノーディールの可能性を一段と高めている。

提供:モーニングスター社

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