【株式新聞・総力配信】順風満帆の「検体検査」(1)―なお伸びる巨大市場、新技術も注目

株式

2019/10/15 14:00

 人生100年時代の到来へ向け、身体的な問題に日常生活を制限されない「健康寿命」の延伸が叫ばれている。そのためには病気の予防や、早期発見といったヘルスケアが何よりも大切だ。こうした中、今後も順調な成長が見込まれる市場が、尿や血液を測定することで健康状態や疾病の有無を見分ける「検体検査」。次々と新たな技術も登場し、投資家の視線も熱さを帯びている。

<世界で戦うシスメックス、アジア人口大国は宝の山>

 検体検査は人から採取した尿や血液、遺伝子などに検査薬(試薬)を用いて、さまざまな病気を診断する方法。レントゲンや心電図のように、体を直接調べる「生体検査」とは対の関係にある。簡易で患者への負担が小さい上、技術の進歩もあり高い精度で測定できるようになったことから、世界に幅広く浸透している。

 体外診断とも呼ばれる検体検査は、赤血球や白血球の数と機能を調べる「ヘマトロジー(血球計数)」や、血液の固まりやすさを調べる「血液凝固検査」、尿検査、免疫検査といったところが一般的だ。診断に使う試薬は体外診断用医薬品(IVD)と呼ばれる。

 診断用の機器なども含めた検体検査の世界市場は、大手のシスメックス<6869.T>の推定では2017年時点で636億ドル(約6.8兆円)に上った。さらに別の調査機関では、この巨大なマーケットが26年まで年率5%に迫る勢いで膨らむ予測を打ち出している。

 世界的に平均寿命が伸びていることで、脳卒中やがん、高血圧症、心疾患、糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病を抱える人の数も拡大した。21世紀に入って感染症による死者数が急激に減る一方で、WHO(世界保健機関)などの共同研究によれば、非伝染性の疾病で死亡する人は05年の3500万人から15年に3900万人に増えている。

 こうした中、多くの生活習慣病の兆候や経過を調べる検体検査の需要も伸びている。強力なドライバーは新興国だ。検体検査全体で、試薬や機器、サービスを合わせた売上高が世界7位のシスメックス(国内シェアは1位)。血球計数の領域では過半のシェアを占め、世界でバランスよく事業展開をする同社にとって「インドやインドネシアなど人口の多いアジアの国では特にビジネスチャンスが大きい」(IR・広報部)。

<DNAからがん治療探る、「線虫」ベンチャーに熱視線>

 日本では、安倍政権が「人生100年時代構想」をぶち上げた。膨らむ社会保障費を抑えるため20年度の診療報酬引き下げに向けた議論が始まる一方で、生活習慣病の早期発見と予防を促す。予防医療に積極的に取り組む企業は補助金で支援し、健康寿命の底上げを図る。

 新たな技術も見逃せない。その一つが、遺伝子を調べる個別化医療だ。遺伝子情報に基づきがんの原因を突き止めることで、その人に最も合う治療法を探す。

 これにはDNAの物質的な配列を読み取る「次世代シーケンサー(塩基配列解析装置)」や、複数の遺伝子の異常を同時に調べられる「遺伝子パネル検査」が解析に使われる。シスメックスのがん関連遺伝子パネル検査システムは今年、初の保険適用となった。

 九州大学発のバイオベンチャー「HIROTSUバイオサイエンス」(東京都港区)が開発したのは、なんと「線虫」を使った検体検査だ。がん患者の尿特有のにおいをかぎ分ける線虫の性質を利用し、たった1滴から高精度ながん診断を行う技術を同社は確立。実用化にこぎつけた。

 線虫によるこのシステム「N-NOSE(エヌノーズ)」は、早期発見の的中率が9割に迫る。15種類のがんを網羅する上、検査費用も1回9800円と安く、企業の健康診断などへの導入が広がりそうだ。

 HIROTSUバイオサイエンスとはトッパン・フォームズ(=トッパンF)<7862.T>が資本提携してヘルスケア分野に進出したほか、フューチャーベンチャーキャピタル(=FVC)<8462.T>やアズワン<7476.T>、エイベックス<7860.T>、イチネンホールディングス<9619.T>、みらかホールディングス<4544.T>が出資している。また、検査には日立製作所<6501.T>が開発した高性能の自動撮像装置を用いる。

提供:モーニングスター社

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