SBIが新生銀行の保有比率を引き上げ、業界再編に思惑

株式

2020/3/23 10:19

 SBIホールディングス<8473.T>が18日提出した大量保有報告書において、新生銀行<8303.T>の保有比率が従来の5.02%から6.06%に上昇したことが明らかとなった。保有目的は純投資としている。

 新生銀行を巡っては、SBIの1月8日提出分の大量保有報告書で発行済株式総数の5.02%に相当する1300万4000株を保有していたことが明らかとなっていた。今回の取得で、SBIの持ち株は1568万8600株となり、投資額は234億円(18日時点)となった。

 新生銀行の足元の業績は堅調だ。20年3月期第3四半期累計(19年4-12月)の連結業績は、経常収益2988億円(前年同期比7.0%増)、経常利益は496億円(同9.5%増)と増収増益で着地、会社計画の20年3月期連結業績に対する進ちょく率も順調だ。同行は19年5月、地域金融機関のスルガ銀行<8358.T>と業務提携、無担保ローンや住宅ローンなど得意とする個人向けビジネスでの連携などでシナジーを出す方針などを示している。足元は新型コロナショックの影響で全体の市場が沈んでいるものの、同行株は外国人株主構成が高くボラティリティ(変動率)が大きめで、リスクオン時には銀行株の中で買われやすいとの特徴も指摘されている。

 こうした中、SBIは厳しい環境にある地域金融機関の収益力強化を目的に、共同体で全国の地銀の運営を支援する「第4のメガバンク構想」を打ち出している。これと並行して進んでいるのが個別の地域金融機関への資本参加による運営支援。SBIが持つIT技術を駆使して地銀のビジネスを再生させる考えだ。勘定系システムの構築、マネーロンダリング(資金洗浄)対策など、多くの投資が必要な銀行を支えるシステムを共通化、フィンテックの技術活用やクラウド化などで、コスト削減を図る。また、SBIが持つ優位性の高い金融商品を提供することで、地域金融機関の収益力を高める方針。SBIは、19年9月の島根銀行<7150.T>との資本・業務提携を手始めに、同年11月に福島銀行<8562.T>、20年1月に筑邦銀行<8398.FU> 、2月に清水銀行<8364.T>と約2カ月に1行のペースで出資を決めている。

 SBIの北尾吉孝社長は、「最低でも10行程度はこうしたことを通じ収益力強化を目指す」としている。また、「金融の枠組みだけで考えていてはダメ」(北尾社長)との考えを示し、地方創生という理念のもとで地方の行政府や地域産業を巻き込むことで地域全体を変えていくことが可能としている。

 新生銀行は地域金融機関ではないものの、公的資金の返済が足かせとなり、経営の自由度が低く、新規事業展開や改革が進みづらい金融機関といえる。前身である旧日本長期信用銀行時代も合わせ、政府はこれまでに約5000億円の公的資金を注入。一部返済などもあり政府は約3500億円の返済が必要とみている。新生銀行の19年3月末時点の利益剰余金約3466億円を取り崩して返済に充てた場合でも、国内行の自己資本比率の基準は維持できるが、やっかいなのは政府に対し発行した公的資金優先株が普通株に転換されているため、回収目標額の1株平均単価7450円程度にならなければ国に損失が出てしまうこと。現値1364円(3月19日終値)からのかい離は大きく、結果として公的資金返済のメドはたっていない。現状は、企業価値を高め株価を上昇させるほか方法はない。

 SBIは今回の出資目的を純投資としており、どのような思惑があるかは不明ながら、公的資金の足かせを取り除くため企業価値を高める運営支援という意味では、地域金融機関への支援と重なるところがある。新生銀行は地域金融機関と共同でシニアローンを提供している他、再生可能エネルギー分野でも地域金融機関とシンジケーション促進を図るなど、SBIが推進する地方創生での親和性も高いとみられる。

 新型コロナショックによる影響で金利低下が一段と進む中、金融機関は利ザヤ縮小による収益悪化で、今後さらに厳しい状況に追い込まれることは必至だ。こうした状況の中、新生銀行の株価は13日に昨年来安値となる1079円まで売り込まれたが、その後は急速に切り返している。19日は全体市場が軟化する中でも、新生銀行を含む銀行株が底堅く推移する動きが見られた。リスクオフで債券を含めたあらゆる資産が売られる中で金利が上昇し、銀行株が選好されたほか、SBIによる新生銀行の保有比率引き上げで、銀行セクターに再編期待が広がった可能性もある。

 SBIの北尾社長は20年年初から常々こう発言している。「今年は金融業界に再編の嵐が吹き荒れる」と。

提供:モーニングスター社

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