<無料公開>新型コロナ感染拡大、経済対策は「出尽くし」か――治療薬で富士フイルムなど再脚光

 新型コロナウイルスをめぐる日本の状況が新局面に入った。感染者は東京都で29日までに430人に達し、大阪府でも200人を超えた。28日に会見した安倍首相(写真は首相官邸ホームページから)は「長期戦を覚悟する必要がある」と警戒感を強め、リーマン・ショック時を上回る経済対策を打ち出す考えを明らかにした。しかし、株式市場への逆風は強まりそうだ。

◎一律現金給付遠のく、消費減税も否定的

 小池都知事が外出自粛を要請した東京では前週半ばを境に1日当たりの感染者の発生件数が急拡大し、28日は63人、29日は68人と連日で過去最多を更新した。日本全国の感染者数は同日時点で1893人(クルーズ船の乗船者を除く)と、ここ2週間で2.4倍に増えている。

 安倍首相は現状について「ぎりぎり持ちこたえている」という認識を示したものの、既に政府は新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく政府対策本部を設置。緊急事態宣言を発令する前段階にきている。

 深刻な景気悪化が予想される中、政府が準備を進める経済対策はリーマン・ショック時の56.8兆円を突破する空前の規模となる見通し。中小企業などの資金繰りを支援する実質無利子融資を拡充するほか、従業員の休業手当の一部を補助する雇用調整助成金の助成率を引き上げる方針だ。

 もっとも、対象範囲が焦点となっていた現金給付について安倍首相は「ターゲットをある程度置くべき」としており、一部で期待されていた全国民一律の給付は見送られる公算。また、消費税率の引き下げにも否定的な見解を述べた。

 全国民への一律の現金給付と消費減税。この2点が実質的に排除されたことで、新型コロナの感染拡大を受けた日本の経済対策は「出尽くし」とマーケットで受け止められる可能性が高い。米国でも28日に史上最大の2.2兆ドル(約237兆円)の経済対策法案が成立したが、同日のNYダウは大幅安に沈んでいる。

◎「アビガン」承認へ、「フサン」は日医工や後発品

 一方、医薬品セクターでは富士フイルムホールディングス(4901)に再び脚光が当たり、日医工(4541)の買い人気も呼んでいる。

 安倍首相は会見の中で、富士フイルムの子会社の富山化学が開発した抗インフルエンザ薬「アビガン」=写真=に関し、「新型コロナ治療薬として承認するプロセスを開始した」と表明。また、日医工が製造・販売する膵炎(すいえん)治療薬「フサン」についても、観察研究として患者への投与を始めるという。

 アビガンは中国政府も新型コロナへの有効性が確認されたと発表しており、現地で後発品が量産される。アビガンの有効成分「ファビピラビル」の同国での物質特許は切れているが、日本国内ではまだ継続している。富士フイルムの株価を押し上げる可能性が高い。

 フサン(一般名は「ナファモスタット」)の国内の特許は既に切れているが、日医工は直近でも新型コロナに絡んで株価がストップ高しており、原料を手掛けるコーア商事ホールディングス(9273・(2))や、製品を販売する持田製薬(4534)も急騰している。また、後発品の製造・販売は沢井製薬(4555)、アルフレッサ ホールディングス(2784)、扶桑薬品工業(4538)、富士製薬工業(4554)など。

◎売り先行も、日銀・年度末思惑で切り返す展開念頭に

 全体相場に話を戻すと、きょう30日の日経平均株価は反落スタートが予想され、再び1万8000円台に突っ込む展開を予想する。ただ、アビガンの承認見通しが市場心理の悪化が際限なく進むことを辛うじて食い止める可能性もあり、また、後場の日銀のETF(上場投資信託)買い期待、年度末の株価対策への思惑も想定されるため、売り一巡後に切り返す動きも念頭に置いておきたい。

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