変わる投信市場を象徴! 投信販売でネット証券が台頭し人気商品のトレンドを動かす
2020/7/31 17:54
投資信託の販売において、ネット証券の存在感が高まっている。7月30日に発表されたSBIホールディングスの21年3月期第1四半期決算において、SBI証券のNISA口座が6月末時点で178万口座と業界トップの野村證券(175万口座)を抜いてトップに立ち、投信の預かり資産残高が2兆5747億円になったことが公表された。投信の預かり残高では10兆円を超える大手証券会社(野村證券、大和証券、SMBC日興証券)には及ばないが、既にメガバンク(三井住友銀行の20年3月期が1兆9731億円)を凌駕している。しかも、月末の投信積立設定金額が6月末で約217億円になっており、この金額が毎月積み上がっていく。ネット証券の台頭は、投信の人気商品等のトレンドにも影響を与えている。
ネット証券4社が揃って投信販売で協力する「資産倍増プロジェクト」をスタートしたのは2011年3月だった。ライバル証券として顧客の争奪戦を繰り広げていたSBI証券、カブドットコム証券(現auカブコム証券)、マネックス証券、楽天証券が揃ってキャンペーンを展開する姿は、新しい時代の到来を感じさせた。当時(2010年)、年間の投信設定額約23.55兆円に占めるネット証券4社のシェアは1.6%の約3700億円に過ぎず、4社を合計した投信残高は約9000億円だった。
ネットを通じた投信販売は、伝統的な窓口販売と比べて大きなハンデがある。窓口販売では、営業担当者が投信の購入を薦めることができる。また、定期預金や国債の満期などに合わせて、預金や国債を継続購入する代わりに投信の購入を提案するという営業活動もある。ところが、ネットでは提案する営業社員がいないため、投資家自身が投信の購入を思い立ち、しかも、自ら購入する投信を選んで購入手続きを進める必要がある。2010年当時はネット4社で個人株式売買委託手数料の7割超を占めながら、投信販売シェアが1%台に留まったのは、個人が自ら動くきっかけに乏しかったためと考えられる。
その後、2014年1月に少額投資非課税制度(NISA)がスタート、17年1月には個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象者が公務員や専業主婦(夫)にも拡大され、18年1月には「つみたてNISA」も始まった。1999年に始まったゼロ金利政策、16年1月に導入されたマイナス金利政策などに象徴される超低金利時代の定着と、投資税制優遇策の拡充が合わさったことで、「眠っていた個人金融資産」という大きな山が動き出したようだ。
ネット証券の台頭は、窓口販売を実施している銀行や証券においてもネット販売への注力を促した。実際に、2018年10月にはiDeCoの口座数でもSBI証券が業界最大手になるなど、税制優遇口座の獲得は、人手を介さないでも大きく伸ばせることが証明されている。投信市場における投信ネット販売の効果は、ネット証券の販売シェアの拡大を上回るスピードで進んでいるといえる。
ネットでの投信販売の進展は、ネット専用のノーロード(販売手数料ゼロ)で低信託報酬のファンド群が定着した。三菱UFJ国際投信の「eMAXIS」、ニッセイアセットマネジメントの<購入・換金手数料なし>、アセットマネジメントOneの「たわらノーロード」などがシリーズ数千億円規模のファンドシリーズに成長した。主として主要な株価指数に連動するインデックス・ファンドを低コストで提供しているが、これが、つみたてNISAの対象ファンドにも採用されて「投信積立」のエントリー商品としてのポジションを確かなものにしている。
また、ネット証券のグループ運用会社も個性的な商品を提供し始めている。SBIアセットマネジメントは、今年3月24日に「中国テクノロジー株ファンド」、7月8日に「SBIポストコロナ ファンド」を設定。昨年9月に設定した「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」は7月21日に、設定からわずか9カ月間で残高が500億円を超えるなど急成長している。楽天投信投資顧問は、米バンガード社と連携した「楽天・全米株式インデックス・ファンド(愛称:楽天・バンガード・ファンド(全米株式)」が今年5月に残高1000億円を突破した。そして、マネックス・アセットマネジメントは、6月25日に「マネックス・アクティビスト・ファンド」を立ち上げている。
低コストのファンドが成長し、個性豊かなファンド群が登場するのは、「ロングテール」といわれるネット販売の特性が発揮された動きといえる。以前批判された、「投信の回転売買(特定商品の大量販売・大量解約)」とは真逆の動きだ。投信ネット販売の進展に期待したい。
提供:モーニングスター社
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