お笑い芸人から「億り人」、Zeppyの井村社長に聞く
2020/8/31 7:49
Zeppy(ゼッピー)の井村俊哉をご存じだろうか。動画投稿サイト「Youtube(ユーチューブ)」で12万人超のチャンネル登録者を誇る「Zeppy投資ちゃんねる」を運営する動画配信企業の創業者・社長にして自身がユーチューブで活躍するユーチューバー、また、「億り人(投資で億円単位の資産を築いた投資家を指す造語)」でもある話題の人に、投資やビジネスをめぐる話を聞いた。
<動画ビジネスと投資の秘訣は?―3つの方針>
井村社長の経歴は異色だ。大学在学中に株式投資を始め、卒業後はお笑い芸人として活動しながら投資を本格化した。年収3万円のお笑い芸人から、運用資産を4億円(今年5月時点)にまで積み上げた。中小企業診断士の資格を持ち、経験に裏付けられた投資理論には説得力がある。
井村社長が作る動画は、これまでの投資関連動画とは一線を画す。それは、いわゆる「買い」の銘柄を紹介する(そういう動画も中にはあるが)だけではなく、どのように銘柄を選ぶのかといった投資プロセスを丁寧に説明している点だろう。
例えば、7月24日に投稿された動画では、個人投資家があすからでもできる、理にかなった銘柄選定(井村社長は12の手順を踏む)を分かりやすく解説してくれている。別の動画では例を挙げて銘柄を見つける手法も紹介するなど、実用性を重視したコンテンツが支持を集めている。
株式投資の動画配信を始めたことについて井村社長は、「もともと企業活動や事業の成長などに関心があり、あまり知られていない会社やその取り組みを紹介することがビジネスになると考えた」と話す。そして、心掛けている三つの方針がある。
<ガチな情報を提供>
まずは、本物の投資家をうならせる「ガチ(本気の、真剣なという意味)な情報」を提供すること。例えば、井村社長が得意とするSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス、*1)・クラウド関連銘柄を見る重要な指標として、PSR(株価売上高倍率)と粗利益率を見ることを勧めている。
こうした銘柄の多くは月額や年額のサブスクリプション(サブスク)ビジネスを展開しているため、売上高そのものに資産性があるという。サブスクは売上高が積み上がることで収益が拡大する事業モデルであるため、一般的なPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)よりもPSRが有効になるという。
ただし、同時にこの売上が質的にもうかるかという点を見極める意味で、粗利率も重要視している。「企業側がサブスクモデルと称していても、実態はそうでない場合がある」と注意点を教えてくれた。こうした情報はプロである機関投資家も着目しているポイントだ。
2つ目は、著名人とのコラボレーション。「心を揺さぶられた」(井村社長)という投資家の片山晃氏と共演した動画は、再生回数が30万回を記録するなど大きな反響を呼んだ。数は力だが、登録者数はこうしたコラボによって大きく伸びるという。
◎企業のIR活動を紹介
そして、3つ目がIR(投資家向け広報)だ。企業側のIR活動を動画で紹介する。チャンネル登録者を多く抱えることで、こちらから営業をしなくても企業からの問い合わせが絶えない。
もっとも、すべてが順調なわけではない。最近では動画で取り上げた銘柄について、ポジショントークではないかと批判を浴びることも多くなってきたいという。直近も番組でIRとして紹介しようとした企業3社の株価が思い掛けず急騰したというのだ。井村社長は、紹介した銘柄を事前に買わないことや、売却するまでに一定の保有期間を設けるなどの独自規制によってコンプライアンスの整備に力を注ぐ考えだ。
新型コロナの影響もあり、クラウドやSaaSを含むDX(デジタルトランスフォーメーション、*2)関連銘柄の株価は大きく上昇したため、「うまみは少なくなった」と井村社長は指摘する。井村社長が「グレートグロース」と呼んできた、フリー<4478.T>や弁護士ドットコム<6027.T>、マネーフォワード<3994.T>、サイボウズ<4776.T>などの時価総額は2000億円を超えるものもあり、もはや割安ではない―。
それでもまだ「視聴率が低い」(注目度が低い)銘柄は存在し、難易度は格段に上がったものの探せば有力銘柄はあるという。「森は見ずに、木を見て投資をすることが多い」ため、業種やセクターから入る投資はあまりしないという井村社長だが、ヘルスケアテック(医療とテクノロジーの融合)分野にはチャンスがあると語る。
動画の中と変わらず、投資や銘柄について熱く、そして誠実に語ってくれた井村社長。人気の秘密が分かった気がした。(宮本裕之)
*1:提供者側のサーバーをネット経由で利用するサービス
*2:あらゆる面でITを活用し、新たな事業や価値を生み出す取り組み
提供:モーニングスター社
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