<新興国eye>カンボジア21年の最低賃金、月額192ドルで決着

新興国

2020/9/25 12:29

 21年1月1日から適用されるカンボジアの最低賃金は、月額192ドルで決着しました。現在は同190ドルで、1.1%増となります。

 最近の最低賃金の上昇は、12年の61ドルから13年の80ドル(31.1%増)、14年の100ドル(25.0%増)、15年の128ドル(28.0%増)と急激なものがありましたが、労働諮問委員会で客観的基準を使用し始めた16年は140ドル(9.4%増)、17年は153ドル(9.3%増)、18年は170ドル(11・1%増)、19年は182ドル(7.1%増)、20年は190ドル(4.4%増)と上昇幅が落ち着いてきています。21年の最低賃金は、新型コロナの影響で世界経済に不透明感が広がる中、客観的基準に沿った、想定の範囲内でおおむね妥当な金額となったものと見られます。

 最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表28名が参加する労働諮問委員会で討議されてきました。雇用者側は新型コロナとEU(欧州連合)の特恵関税一部停止の影響が大きいとして18ドルの引き下げ(9.5%減、月額172ドル)を要求しました。これに対し労働者側は12.35ドルの引き上げ(6.5%増、同202.35ドル)を要求していました。9月10日の会議では190ドル(20年と同額)で合意し、労働大臣に答申されました。この結果を受けて、フン・セン首相は、毎度おなじみの鶴の一声で2ドル増額を加えることを決定し、最終的に192ドルで決着しました。使用者側からの意見もあって、フン・セン首相による追加額は19年までの慣例だった5ドルから、20年は3ドルに、21年は2ドルに縮減されました。

 内需振興のためにも、最低賃金の引き上げは必要不可欠ですが、急激な上昇は外国投資家の懸念となっていました。カンボジア政府では、最低賃金の検討に当たって、労働生産性上昇率や物価上昇率等の客観的基準を16年の最低賃金から使用し始めており、雇用者側も労働者側も納得感が高い決定方式が次第に定着しつつあります。また、20年は、新型コロナとEUのEBA(武器以外の全品目を無関税で輸出できる特恵関税制度)の資格停止の影響が大きく、工場の閉鎖や労働者の失業・一時帰休が大きな問題となっており、こうした情勢も反映したものと見られます。

 カンボジアの最低賃金は、ベトナムよりも高くなっているとの声もありますが、社会保険料や手当等を含めた実質の支払額では、カンボジアのほうがまだ相当に低いのが実情です。とはいえ、当面、労働集約型産業に頼る必要があるカンボジアとしては、周辺国との外資誘致競争に負けないよう、周辺諸国の賃金レベルも配慮する必要があるとの見解も高まっています。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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