EUとの自由貿易協定合意なるか(2)―10月15日協議終了カードを切ったジョンソン英首相の賭け

経済

2020/10/1 13:19

 ジョンソン英首相の国内市場法案は、イングランドとスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの相互貿易に関する国内ルールで、EU(欧州連合)離脱の移行期間終了後、21年1月1日以降の新しい国内貿易の運用方法について定めたものだ。

 ジョンソン首相の法案の主な内容は、

(1)北アイルランドから英国本土に対する製品の移動について関税チェックを行わない

(2)もし、FTA(自由貿易協定)協議がEUと合意できなかった場合、21年1月から適用される財の移動についてEU離脱協定で合意したルールを書き直すか、または無視できる権限を英国政府の閣僚に与える

(3)EU離脱協定で合意した企業への国庫補助金に関するルールを書き直す権限を閣僚に与える――となっている。

 英政府は、「これらの権限はたとえ国際法と相容れないとしても適用される。この法案は英国本土から北アイルランドに向かう製品に課せられるEUの不公平関税を阻止するために必要だ」(9月9日の英放送局BBC)としている。

 また、ジョンソン首相は9月9日、下院本会議で行われた最大野党・労働党との党首会談でも、「私の仕事は英国連邦の分裂を回避し、北アイルランドの和平プロセスを保護することだ。北アイルランド・プロトコル(手続き)の非合理的な極端な解釈により、アイリッシュ海に国境が作られることを阻止する、法的なセーフティーネットがこの法案だ」と述べている。

 北アイルランド・プロトコルでは、

(1)北アイルランドのすべての財にEU単一市場のルールを適用(国境で通関チェック)する

(2)北アイルランドは英国の関税地域に残る。これにより、北アイルランドはEU以外の国との自由貿易協定の恩恵が受けられる。英国本国からまたは英国経由で第三国から北アイルランドに入った財がEUに行かず、北アイルランドにとどまる場合、英国の関税が適用されるが、EUに入る場合、EUの関税を適用する

(3)EUと英国のVAT(付加価値税)の税率を一致させるメカニズムで合意し、北アイルランドにEUのVATが適用され、英国がEUに代わってVATを徴収する――などとなっている。

 ただ、北アイルランド・プロトコルには、「北アイルランドの企業が英国本土で製品を売る場合、輸出届がいる」「英国はEUに対し、いかなる国庫補助金も北アイルランドとEU単一市場との貿易についての影響の有無を通知する義務(国庫補助金ルール)がある」「英国本土から北アイルランドに輸出される財が最終的にEU単一市場に向かうかの判断を英国とEUの合同委員会に委ねることから、企業の負担が増す」といった問題点がある。

 下院・司法委員会のボブ・ニール委員長(保守党)は政府閣僚が北アイルランド・プロトコルの修正または無視できる権限を行使する前に、議会に行使すべきかどうかの拒否権を与える修正動議を提出。国内市場法案が無傷で成立することが困難な情勢となった。テレグラフ紙は9月10日付で、「ニール委員長の修正動議が可決した場合、政府の同法案は事実上、骨抜きになる。一方、与党・保守党の30人の議員が同法案に反対投票する準備を進めている」と報じた。

 ジョンソン首相は9月14日、同法案を議会に提出する際、ニール委員長の修正動議を丸呑みする戦術に転換した。これは、同法が発動された場合、政府閣僚に与えられる北アイルランド・プロトコルの運用に関する権限について、行政委任立法(政令や省令などに相当)を議会に提出し、議会は40日間の審議期間が与えられ、採決できるというもの。政府が議会に対し、権限の行使前に議会の拒否権を認めたのだ。

 また、首相は国内市場法案について、「自由貿易協定が合意できなかった場合の保険だ。合意した場合、この法律は実施されない」(9月14日の英テレビ局スカイニュース)と明言した。この戦術変更により、14日の下院で第2読会が開かれ、同法案は賛成340票に対し、反対263票と、77票の大差で可決し、最初の関門を突破した。

 今後、法案の成立に向け、どこまで造反議員を封じ込められるかがカギとなるが、ジョンソン首相は9月16日の下院の連絡調整委員会で、ニール氏ら造反議員と意見交換し、政府がニール氏の修正動議を受け入れ、国内市場法案の修正法案を提出することで合意したことから、議会で成立する可能性はかなり高まった。

(3)に続く

提供:モーニングスター社

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