EUとの自由貿易協定合意なるか(3)―10月15日協議終了カードを切ったジョンソン英首相の賭け

経済

2020/10/1 13:19

 英政府は国際法に違反する国内市場法案が正当だとする根拠について、「EU(欧州連合)離脱協定が急いで策定され、ジョンソン首相が20年1月の離脱日の直前に署名しなければならなかった」とした上で、「国内市場法案はあとで離脱協定の曖昧な箇所を書き直すことができる、他の条約にはないものとなった」(9月9日付英紙ガーディアン)と弁明している。ただ、「離脱協定に欠陥があると主張するならば、なぜ、首相は署名したのかと言う疑問が残る」(同)ことも事実だ。

 EUはこれに対し、FTA(自由貿易協定)協議を継続するためには英国が離脱協定の完全実施を保証する文書を差し出さなければならないと反論し、両者の溝は深まるばかりだ。

 英紙デイリー・テレグラフのフィリップ・ジョンストン政治記者は9月8日付コラムで、ジョンソン首相から送られてきたというEメールを引用し、「首相はFTA協議が10月15日までに合意できなかった場合でも前進するしかない」と吐露し、「もしノートレードディール(FTA合意なし)の場合、われわれはオーストラリアのように、EUと(個別特定分野で)貿易取り決めを結ぶことになる。英国にとってノートレードディールでも構わない」と指摘していたという。ジョンソン首相はノートレードディールを覚悟しているという。

 一方、ジョンソン首相はまだFTA合意の可能性があり、EUからの譲歩を待っているとの見方もある。ノートレードディール・ブレグジットになった場合、EU離脱当初は物流危機が発生する可能性がある。英国は新型コロナ危機だけでなく、ブレグジット危機も間近に迫っている。それだけにジョンソン首相もノートレードディールは避けたいところだ。

 ジョンソン首相の国内市場法案は9月22日夜、下院の公共法案委員会で可決し、2つ目の関門を突破した。これは政府が同法案に反対している保守党の造反議員を説得するため、同法案への修正要求(離脱協定の書き直し権限の行使に対する拒否権を議会に与えること)を受諾したからだ。9月29日には国内市場法案の修正法案が下院でも賛成多数で可決したが、メイ前首相ら20人以上の保守党議員が投票を棄権しており、党内にわだかまりが残る結果となった。

 今後、修正法案が議会で成立するには、上院での審議と採決が必要となる。しかし、政府は10月中旬(15-16日)に予定されているEUサミット(加盟27カ国の首脳会議)のFTA協議に関する最終判断を待った上で、上院に送付する方針だ。このため、上院から下院に再び修正法案が戻ってくるのは移行期間終了(12月31日)のわずか数週間前となる可能性が高いとみられている。

 英政府はもし10月15日のEUサミットまでにFTA協議が合意すれば、議会の拒否権を認める形で国内市場法案を修正するとしている。「英国がFTA協定の締結を目指し、EUと合意することをコミットするという合図をEUに送ったもので、潮目が変わる可能性が出てきた」(9月25日付テレグラフ紙)との見方もある。しかし、EUは、「FTA協議のテーブルには国内市場法案は修正されないままで提出されている限り、合意することはない」(同紙)と、疑心暗鬼になっている。

 英国の国内市場法案は、城に例えるならば、EUの外堀を埋めるような外交戦略だ。北アイルランド・プロトコル(手続き)に対する英国の修正権限の発動はFTA協議がノートレードディールに終わった場合の安全策となっている。したがって、EUが英国の国内市場法案を認めれば、EUにとってよくない結果になるので、どうしてもFTA協議を合意させなければならないという巧妙な駆け引きに見える。

提供:モーニングスター社

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