海外株式見通し=米国、香港
米国株:金融株、緩和長期化が追い風
追加経済対策について共和党内で、財政支出規模の引き上げに積極的なトランプ大統領と消極的な共和党上院の間で食い違いが生じている。
共和党の支持基盤であるキリスト教保守派がよって立つプロテスタントの価値観によれば、「神のために労働をし、富裕となることは良いこと」。一方、「怠惰は罪悪」とされ、労働意欲を損なう失業給付などの増額が罪悪と見なされる面がある。それに対し、トランプ大統領は大統領選へ向け激戦州で幅広い層の票が必要な事情もあり、上院との利害相反が起きている。この「仲間割れ」的な状況は民主党に有利に働こう。
9月末までの米2020年会計年度の財政赤字は、従来の過去最悪だった09年度の2倍を超える3兆1320億ドルに達した。仮に民主党政権が誕生した場合は財政支出の大規模化に伴う国債増発が想定され、債券市場は国債入札の消化状況に神経をとがらせ、長期金利が上昇しやすくなるだろう。
金融機関が国債発行への応札へ資金を優先することにより民間部門に資金が回りにくくなれば、短期金融市場への流動性供給の強化に伴うドル安傾向が強まると見込まれる。その一方、連邦議会選で共和党が上院の過半数を維持した場合は財政支出拡大にブレーキがかかりやすくなり、景気敏感銘柄や、クリーンエネルギー関連のインフラ支出拡大を織り込んで買われた銘柄の株価の反動安が懸念される。
米国S&P500構成企業の20年7~9月期決算に関し、10月23日時点のファクトセットの調査によれば、決算発表を行った企業のうち8割以上が市場予想を上回った。中でも金融・証券業界は金融緩和を追い風にトレーディングや投資銀行業務が業績に貢献。特に資産運用業務は最大手のブラックロックのCEO(最高経営責任者)が「すべての資産、投資戦略、地域で資産流入が増えた」と述べるほど好調だった。
世界的な金融緩和の長期化観測を背景に、有力な金融・証券関連企業の見直しが進むと考えられよう。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
香港株:深セン、「大湾区計画」新ステージ
スマートフォン部品などIT関連製品が集積した「世界の工場」だった深センは今や、「赤いシリコンバレー」と呼ばれる最先端のハイテク都市に変ぼうした。インターネットサービスのテンセント、通信機器メーカーのファーウェイやZTE、EV(電気自動車)のBYD、商用ドローン(小型無人飛行機)最大手のDJIなど名だたる先進的企業がこの地で産声を上げた。
また、深センでは成長した民間企業が新興企業を産み出すエコシステムが形成されている。スマート物流プラットフォームを手掛ける菜鳥網絡(ツァイニャオ)、ヒト型ロボットの開発製造を手掛けるUBテックロボティクス、折り曲げが可能な有機ELパネルのロヨル、顔認証用3D(3次元)センサーの奥比中光など、今年8月末時点で深センに本拠地を置くユニコーン企業(時価総額10億ドル超の未上場企業)が28社を数える。
10月14日に開催された深セン経済特区設立40周年の記念式典では、習近平国家主席が広東省、香港、マカオを一体的に発展させる大湾区(グレーター・ベイエリア)計画に触れ、「深センは大湾区建設の重要なエンジンである。3地域の経済運営ルールとメカニズムの結び付きを推進しなければならない」とその役割を強調した。
15年3月、粤港澳(エツコウオウ=広東省・香港・マカオの略称)大湾区発展計画綱要が発表され、18年10月には3地域を結ぶ港珠澳大橋が開通した。これを機に経済一体化の下地が整った。大湾区の人口は7265万人、総面積は5.61万平方キロメートルに上る。19年2月に公表された「大湾区発展計画」には、20年までに大湾区計画の基礎を固め、22年には3地域のルールを統合するスケジュールだ。深センは中国が掲げる国内と海外の「二重循環」成長モデルの要となるだろう。
(フィリップ証券リサーチ部・李一承)
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(写真:123RF)
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