「為替ヘッジあり」を選ばない理由とは? 超低金利時代のファンド選び

投信

2020/11/19 16:58

 海外株式や債券に投資するファンドでは、為替変動リスクをどうするかということが一つの課題になる。株価上昇率や債券利回りなど、海外の株式や債券には国内にはない魅力があるが、為替相場の変動は決して小さくなく、債券の利回り格差などは為替の変動によって吹き飛んでしまうことも少なくない。そうであれば、海外資産に投資するファンドの場合は「為替ヘッジ」の付いたファンドを選んで、為替変動の影響を回避すれば良さそうなものだが、実際に国内で設定・運用されているファンドの残高をみると、「為替ヘッジなし」の方が圧倒的に多い。しかし、コロナショック後に進んだドル安・円高局面で、「為替ヘッジあり」のパフォーマンスの優位性が目立ってきた。

 「為替ヘッジなし」の方が選ばれてきた理由は、「為替ヘッジ付きは、ヘッジコストがかかる」「円安局面では、資産の値上がりに加えて為替差益も併せて得られる」ということが一般的だろう。

 為替ヘッジコストとは、基本的に交換する通貨の金利差に相当する。代表的なドル円については、米国FRBが政策金利を徐々に引き上げる中で、デフレからの脱却を目指しゼロ金利政策を維持する日銀との政策格差で金利差が拡大していた。2019年夏ごろまでは、米国と日本の短期金利差は2.5%を上回る水準に拡大した。この金利差が「為替ヘッジコスト」ということになる。

 ところが、コロナショックによる経済の停滞は、米FRBの姿勢を一変させた。「停滞する景気を浮揚するためにはあらゆる手段を使う」という方針のもと、ゼロ金利政策と量的緩和を同時に実施。米国の短期金利もゼロ%台に引き下げられたことで、日米の金利差は一気に縮まった。ドル円のヘッジコストは2019年頃に3%程度が必要だったが、現在では0,5%台に低下している。このヘッジコスト低下については、ドル円だけではなく、ユーロ円、カナダ・ドル円、シンガポール・ドル円など、様々な通貨との間でのヘッジコストが低下した。日本よりも深いマイナス金利政策を取るユーロとの間ではヘッジコストがマイナスになっている。

 一方、ドル円の為替レートは2015年の1ドル=112円台をピークとして、緩やかなドル安・円高が続いている。2020年は年初109円台でスタートし、現在は103円台だ。本来であれば、金利水準の高い米ドルが対円では強いはずだが、実際の動きは円高に進んできた。

 このような過去のヘッジコストの推移と、ドル円の推移を合わせて考えると、「為替ヘッジなし」を選んでいると、為替ヘッジのコスト負担を回避できたものの、ドル円のドル安・円高によって為替差損は被ってきたという歴史になる。その結果として、同一のマザーファンドに投資する「為替ヘッジなし」と「為替ヘッジあり」のファンドのトータルリターンの推移は、ここ3年くらいは、同じような動きになっている。「為替ヘッジなし」と「為替ヘッジあり」の間で差がつき始めたのは、コロナショックを開けた今年4月以降だ。「為替ヘッジあり」の方が明らかに優位になっている。

 たとえば、「国際株式・グローバル・含む日本(為替ヘッジあり)」のカテゴリーの中で、過去1年間のトータルリターンが第1位である「グローバル・フィンテック株式ファンド」(日興アセットマネジメント)のトータルリターンを「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」で比較すると、過去1カ月では、「為替ヘッジあり」の7.33%に対し「為替ヘッジなし」は6.25%。過去1年でも「為替ヘッジあり」の85.49%に対し「為替ヘッジなし」は79.74%と明らかに差がついている。これは、「グローバルAIファンド」(三井住友DSアセットマネジメント)、「ダイワ・グローバルIoT関連株ファンド」(大和アセットマネジメント)など、ここ運用成績の良いテクノロジー系ファンドに等しくいえることだ。

 にもかかわらず、どのファンドをみても純資産総額が大きいのは、運用成績が悪い「為替ヘッジなし」の方になっている。基本的に為替ヘッジの「あり」と「なし」でファンドの信託報酬が変わらず、投資家として直接負担する運用コストは同じなのだ。なぜ、「為替ヘッジあり」は敬遠されるのだろうか?

 よほど「これからは円安になる」という強い確信がある場合は、「為替ヘッジなし」を選んで為替差益を狙うという使い方はあるだろう。しかし、ここ数年間で、金利の高い米ドルが日本円に対して下落してきたように、為替の変動を予測することは大変難しいことだ。為替の変動が予測できないのであれば、「予測できないリスクは取らない」として「為替ヘッジあり」を選ぶのは、妥当な判断と考えるがどうだろう?

提供:モーニングスター社

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