<新興国eye>カンボジア海上油田、商業生産を開始

新興国

2021/1/8 12:04

 20年12月29日、カンボジア南部シアヌークビル沖の海上油田鉱区ブロックAで油田開発を進めているシンガポール系のクリスエナジーは、商業生産を開始したと発表しました。カンボジアのフン・セン首相も同日の国民向け演説で本件に触れ、「石油生産開始はカンボジアを祝福するものだ」と称賛しました。また、シハモニ国王も、初の石油生産をお祝いするとのコメントを発表しました。

 海上油田ブロックAについては、当初は米国のシェブロンや日本の三井石油開発なども権益を有していましたが、税金問題などでカンボジア政府と折り合いがつかなかったことなどにより、現在の持ち分は、クリスエナジー95%、カンボジア政府5%となっています。

 開発のフェーズ1Aは、ブロックAのうち3083平方キロメートルで、水深50-80メートル程度と見られます。フェーズ1Aでクリスエナジーは、海上プラットフォーム1基(24井)と浮体式生産バージ、さらに1.5キロのパイプラインで接続される浮体式貯蔵積出設備(FSO)を投入して、日量3万バレルの原油を生産する計画でした。現在、縮小したミニフェーズ1Aでは、日量7500バレルを目指すとしています。今回の初生産は、A-01D井からであり、今後さらに4本の油井の掘削を行い、2月以降に本格生産に入るとしています。

 なお、日産7500万バレルで1月4日現在のNY原油先物WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)価格49ドルと仮定すると、年商1億3400万ドル程度(約138億円)となります。カンボジア政府の収入は、持ち分と税金で数十億円程度と見込まれ、あまり大きな金額ではありませんが、フン・セン首相は教育セクターなどに活用したいとしています。また、カンボジアの石油類(ガソリン等)の輸入額は19年実績で約2500億円となり、ブロックAの生産額は輸入の5%ほどに当たります。

 当初の計画では12年12月12日に商業生産が開始される見込みでした。大分遅れましたが、商業生産が開始されたことは大きな意義があります。これまでカンボジアは石油製品を全量輸入に頼っていましたので、原油の産出により、貿易収支の改善に加え、国際石油価格の変動ショックを吸収しやすい経済体質となることが期待されます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

◎当該記事は外部執筆者により作成されたものです。記事は執筆者が信頼できると判断したデータなどにより作成いたしましたが、その正確性などについて保証するものではありません。

提供:モーニングスター社

関連記事

マーケット情報

▲ページTOPへ