海外株式見通し=米国、香港
米国株:構造変革で3Dプリンター注目
1月22日発表の1月IHSマークイット米製造業購買担当者指数(PMI)速報値や、2月1日発表の1月ISM製造業景況指数では、コロナ禍パンデミック(世界的規模での流行)に伴うサプライチェーンの制約により、材料・産出物価格の上昇が示された。近い将来のインフレ高進を示唆している。
サプライチェーンの見直しとしては、危機発生に対応し、柔軟な調達先の変更や分散化を進めることが挙げられる。しかし、すぐにそうすることは簡単ではない。この経営上の課題に対し、地理的制約に縛られることなくローカルで設計・試作・製造ができるニューノーマル(新常態)の有力な選択肢とされるのが「3Dプリンティング」である。
現在、多くの企業が中国をはじめとした海外に工場を展開して製品を安価に生産する「オフショア生産」を行う中、3Dプリンティングの活用は離れた工場から製品を輸送するコストと時間を省ける。また、複数のパーツから構成される部品も1回のプリントで作製することで部品の組み立て工程が不要となる。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の一つの到達点と位置付けられるべきものだろう。
現に航空宇宙業界でも、高い精度が求められ、複雑な形をした多くの部品で先端素材が使用されることから、多くのプロセスを1台でこなす3Dプリンター(3次元印刷機)が必要とされる。大手航空宇宙機器メーカーは3Dプリンターを中心に、オートデスクのような3D設計・モデリングソフトを手掛ける企業と提携し、従来よりも軽量で高強度の3D造形の客室間仕切りを設計する動きも見られ始めている。
このような経営環境の変化の基、3Dプリンターのスリーディー・システムズ<DDD>や同業のストラタシス<SSYS>の株価が動意づいている。一時的な思惑による動きではなく、グローバル経済のサプライチェーンに係る構造変革を表すものとして重要視されよう。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
香港株:市場を後押しするサウスバウンド
年初から騰勢を強めてきたハンセン指数が1月25日、終値でフシ目の3万ポイントを回復した。ハンセン指数の年初来上昇率も10%以上に達した。中国本土と香港の株式相互取引であるストック・コネクト(滬港通〈ここうつう〉)を通じた中国本土投資家の買い越し額は、1月18日に230億香港ドルと中国本土市場からの「サウスバウンド」(港股通〈こうこつう〉)で初めて200億香港ドルを超えた。
中国経済の回復に伴い、リスク選好ムードが高まった本土投資家による香港株への投資拡大が香港市場を押し上げている。
2019年初以降のハンセン指数、上海総合指数、深セン総合指数の推移をみると、深セン総合指数が約2倍、上海総合指数が5割弱の上昇率を遂げた一方、ハンセン指数は約2割の上昇にとどまっている。また、予想PER(1月26日現在)をみると、NYダウ平均が20.7倍、日経平均が25.4倍に対し、ハンセン指数は世界主要指数の中でも相対的に低い13.2倍。香港市場には過熱感が乏しく、中国経済との一体化が進む香港市場はむしろ出遅れに伴うキャッチアップの動きが続くととらえる向きもある。
中国本土市場や香港市場の主要指数構成銘柄がストックコネクトの投資対象銘柄となる中、香港市場で他市場と重複上場する「セカンダリー銘柄」はいまだサウスバウンドの投資対象として解禁されていない。香港取引所によると、20年末時点の香港市場上場のセカンダリー銘柄には、アリババ<BABA>、JDドットコムなど10社が含まれる。
足元では、米上場の動画配信大手ビリビリ、ネット検索大手のバイドゥ、ネット旅行大手のトリップ・ドットコムなどのネット関連大手に関し、年内の香港市場でのセカンダリー(流通市場)上場スケジュールが示された。米上場の中国企業が約217社、時価総額が2.2兆米ドルに上ることから、今後のセカンダリー上場ラッシュが香港市場のプレゼンス拡大に寄与するだろう。
(フィリップ証券リサーチ部・李一承)
(写真:123RF)
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