海外株式見通し=米国、香港
米国株:インフレ懸念で金(ゴールド)に輝き戻るか
米国が欧州をはじめとする他地域との比較で存在感を増している。米国の新型コロナウイルスのワクチン接種回数は3月29日時点で約1億4600万回となり、人口比で40%を超えた。これに対し、欧州では同月28日時点でドイツが1237万回で人口比約15%、フランスが1039万回で同約16%にとどまり、新型コロナ感染の再拡大が強く懸念されている。
しかし、「独り勝ち」の状況は米国自身にとってもリスクをはらんでいる。既に、米西海岸行きのコンテナ船の運賃は今年3月で前年同期比2.5倍の水準に跳ね上がる中、経済対策による現金給付で個人消費が盛り上がれば、米国を目指す輸送需要がさらに膨らみ、運賃上昇加速がインフレへと波及していくリスクが高まるだろう。
スエズ運河での巨大コンテナ船座礁も物流混乱に拍車を掛けている。海運や航空貨物会社、あるいはフェデックス<FDX>のような物流会社への追い風と対照的に、輸送コスト増が幅広い企業業績に響く可能性がある。コストの価格転嫁の動きが消費者物価に反映するのは遠い先のことではないように思われる。
※右の画像クリックでグラフ拡大
そうなると、物資の輸送先が米国に偏ることで貿易赤字が膨らむほか、新型コロナ経済対策の大盤振る舞いに加え、3兆~4兆ドル規模のインフラ支出が実現すれば財政赤字拡大も進むことになる。1980年代の「双子の赤字」が再来するリスクも強まる。
コモディティー(商品)市況が昨秋よりおおむね堅調に上昇しているが、金価格は8月から上値が重い軟調な推移となっている。双子の赤字が脚光を浴びるようになればドル高トレンドの反転とともに、インフレ・ヘッジの本命アセットとして再び輝きを増す余地も出てくる。ニューモント<NEM>のような金鉱株も出番が近いのかもしれない。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
香港株:バイオテックとセカンダリー上場株がけん引する香港IPO
香港取引所が上場要件を緩和させ、2018年4月以降、赤字のバイオテック企業でも香港市場でのIPO(新規上場)が可能になった。バイオテック企業の上場社数が同年の5社から20年に28社へ、医療保険業全体の時価総額が17年の8550億香港ドルから20年末に3.54兆香港ドルへそれぞれ拡大した。
20年のIPO初日(終値)の対公募価格の平均上昇率をセクター別でみると、消費セクターの27.1%と医療保険セクターの24.4%が上位2業種となった。医療保険セクターのうち、20年にIPOを果たした赤字バイオテック株14社の平均上昇率が28.9%と群を抜いている。
バイオテック株に勝るとも劣らず、他市場との重複上場であるセカンダリー(流通)上場株も好調な推移を見せた。19年のアリババ<BABA>による香港市場へのセカンダリー上場を皮切りに、20年のセカンダリー上場株はJDドットコム<JD>、ネットイース<NTES>など9社を数えた。20年末時点で9社共に対公募価格比で上昇した中、9月末に香港への重複上場を果たした再鼎医薬の3カ月間の上昇率が84%に達した。
今年3月に入り、オートホーム<ATHM>とバイドゥ<BIDU>、ビリビリ<BILI>の3社が相次いで今年のセカンダリー上場を果たしたが、春節(旧正月)前に香港市場へのIPO申請が伝えられた旅行サイト大手のトリップ・ドットコムが4月中にも後に続く見通しだ。大手ポータルサイトの新浪(SINA)や捜狐(SOHU)、出会いマッチングの陌陌(MOMO)、共同購入サービスのピンドウドウ(PDD)、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手の人人網(RENN)、求人サイトの51ジョブ(JOBS)も年内の香港IPOが確実視されている。
このほか、中国ショート動画大手の快手科技が上場を果たしたのに続き、世界ユニコーン上位企業に数えられるショート動画大手のバイトダンス、配車サービス最大手の滴滴出行も年内香港IPOが観測されている。香港市場のIPOに対する人気はますます高まる。
(フィリップ証券リサーチ部・李一承)
(写真:123RF)
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