アナリストの視点:10年以内に4割以上が償還のアクティブ、グローバル株式の最終的な勝率が1割以下
償還率が高いコモディティ・ヘッジファンドなどのオルタナティブは長期投資に不向きか?
アクティブファンドの最終的な勝率を含めた「アクティブ/パッシブ・バロメーター」を2020年12月末基準で改めて計算してみた。計算方法は、前回の2018年12月末基準(2019/3/15の「アナリストの視点」参照)と同様とし、まず、期初から期末までの10年以内に償還となったファンドの「償還率」を計算した。具体的には、期初(2010年12月末時点)の時点で3本以上のパッシブファンドが属する19のカテゴリーを対象に計算したところ、主に2つの特徴がみられた。第1に、19カテゴリーの平均ではパッシブファンドの14.6%に対し、アクティブファンドは42.8%と、アクティブファンドの償還率の高さが際立った(図表1参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。つまり、アクティブファンドは10年の間に2本に1本弱の割合で償還したことになり、投資家は運用成績の良し悪しの前に、意図せざるタイミングで現金化されるリスクを強く意識せざるを得なかった。パッシブファンドの場合、仮に償還になったとしても同一の指数連動型に乗り換えればいいとの考え方もできるが、アクティブファンドでは一般的な投資家が類似のコンセプトや運用方針のファンドを見つけるのは容易ではない。
第2に、カテゴリー別では「コモディティ」と「ヘッジファンド」の償還率の高さが目立つ。「コモディティ」ではアクティブファンドは期初には36本が設定されていたものの、10年間で9割以上が償還となり、結局、期末まで運用が続けられたのはわずか3本にとどまった。「ヘッジファンド」は、アクティブファンドが期初には64本あったものの、8割以上が償還、期末まで残ったのは10本で、パッシブファンドはパフォーマンス指数連動型など3本の全てが期中に償還となった。コモディティやヘッジファンドも含めたオルタナティブは、一般的には伝統的な資産とは異なるパフォーマンスや分散投資の効果などが期待されるが、現状の償還率の高さでは長期投資に適したカテゴリーとは言い難い。また、2020年12月末時点で「ヘッジファンド」に属するアクティブファンドの10年トータルリターン(年率)は、10本中2本は6%を超えたものの、1本は1%台、6本は1%未満、1本はマイナスとなっていた。パッシブは期中に全て償還となったため、相対パフォーマンスでの優劣はつかないものの、絶対値でみても長期に良好なパフォーマンスとなったファンドは極めて限定的だった。なお、現状ではオルタナティブの一角を占めるREIT(不動産投資信託)で償還率が極端に高いといったカテゴリーは見当たらないものの、個別ファンドベースでは海外REITを対象とする毎月分配型を中心に多額の分配金の支払い続けたことなどから基準価額が3,000円以下などの低水準で推移するファンドも目立つ。今後、運用成績の低迷や資金流出に伴う償還などが増加すると、分散投資におけるオルタナティブ資産の位置づけも再考する必要が出てくるかもしれない。
「最終的な勝率」は多くのカテゴリーで3割以下、10年前の米国株ファンドはマイナーだった?
次に、期末に現存しているファンドについて、パッシブファンドのトータルリターンの単純平均を上回ったアクティブファンドの比率(本数ベース)、つまり最終的なアクティブファンドの勝率である「アクティブ・サクセス・レート」を計算した。今回は、償還率と同様に期間は10年のみで、償還率を計算した19のカテゴリーの中から、期末のパッシブが3本に満たなかった「ヘッジファンド」と「国際株式・グローバル・除く日本(為替ヘッジあり)」を除いた17のカテゴリーを対象とした。計算結果をみると、2020年12月末時点でアクティブ・サクセス・レートが5割を超えたのは「国内REIT」だけで、4割以上も「国際株式・中国(為替ヘッジなし)」のみとなっており、5つのカテゴリーでは3割以上4割未満、10のカテゴリーでは3割を下回った(図表2参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。リターンは対象期間で大きな差異が出る場合もあるため、前回と今回を比較してみると、共通して算出対象となった12のカテゴリーのうち、「国際債券・エマージング・複数国(為替ヘッジなし)」などの3つのカテゴリーでは今回の方が6%以上上昇したものの、逆に「国際債券・グローバル・除く日本(為替ヘッジなし)」などの4つのカテゴリーでは6%以上低下し、5つのカテゴリーは±2%以内とどまった。つまり、カテゴリーごとに変動はあるものの、全体としてはアクティブ・サクセス・レートが3割以下にとどまるカテゴリーが目立つという傾向に大きな変化はなかった。
カテゴリーベースでは、「国際株式・グローバル・含む日本(為替ヘッジなし)」と「国際株式・グローバル・除く日本(為替ヘッジなし)」がいずれも1割以下にとどまった点が目立つ。両カテゴリーに属する個別ファンドでみると、いずれもパッシブファンド平均を上回ったアクティブファンドは10本以下にとどまっており、その中にはテクノロジー関連、ヘルスケア関連に特化したファンドが複数含まれている。一方で、パッシブファンド平均に大きく劣後したファンドの中には資源関連や金融を重視するファンドが目立った。つまり、金融危機が去った後に、将来的には「資源・金融は売り、テクノロジー・ヘルスケアは買い」を前提とした投資スタンスをとっていればよかったということになるが、当時を振り返ってみてもそのようなスタンスが多数派だったとは言えないだろう。ちなみに、直近では最も人気が高いカテゴリーの一つである「国際株式・北米(為替ヘッジなし)」が今回は集計対象となっていないのは、2010年12月末時点ではETFを除くとパッシブファンドは「SMTAM ダウ・ジョーンズインデックスファンド」の1本しか設定されていなかったためだ。同月末時点では、アクティブファンドも30本にとどまり、最も純資産額が多い「フィデリティ・米国優良株・ファンド」ですら100億円に満たず、その後の10年内に半数のファンドが償還となっている。つまり、わずか10年前には、少なくとも国内ファンドの中では米国株はどちらかというと人気がなく、資金も集まりにくい、マイナーな資産・カテゴリーであったということだ。これから10年先には過去とは逆に「テクノロジー・ヘルスケアは売り、資源・金融は買い」となった、米国株の人気は離散した、もしくは今はマイナーな他のカテゴリーの人気やパフォーマンスが高まったという可能性もあるわけで、直近のパフォーマンスや人気だけに過度にとらわれることがないように注意すべきだ。
(吉田 誠)
(写真:123RF)
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