海外株式見通し=米国、香港
【米国株】企業決算スタート、コストの「3重苦」
今週から主要米企業の2021年7~9月決算発表が始まる。10月8日付のファクトセットの調査リポートによれば、S&P500構成企業における純利益の増益率(前年同期比)の市場予想は27.6%と、四半期では10年以降で3番目の高水準であるほか、6月末時点の市場予想24.2%から上方修正された。
企業利益を増やすには、企業が増益率を高めるために費用を抑えて収入を高めることが必要である。その意味では、増収率だけでなく、売上総利益(粗利益)の売上高に対する比率である「粗利率」や、販売管理費の売上高に対する比率である「販管費率」などの推移が重要視されよう。
現在、企業収益を取り巻く環境は、(1)エネルギー費用やその他コモディティー(商品)相場の高騰に伴う仕入れコスト上昇(2)サプライチェーン混乱に伴う輸送・物流コストの上昇や入荷遅延(3)求人に対して雇用が回復せずに労働需給がひっ迫することに伴う人件費の上昇――といった「3重苦」のコスト上昇要因を抱えており、特に年末商戦を稼ぎ時とする小売など消費関連企業にとっては、どこまでコスト増を吸収できるかが悩みの種になっていると推察される。
投資の観点からは、長期金利上昇に伴う利ザヤ改善が期待される金融関連、エネルギー価格高騰が追い風となるエネルギー関連のほか、消費関連でも高いブランド力があることから値上げが容易な企業は相対的に有利だろう。また、クラウド・コンピューティングなどのデジタル領域を事業の主な分野とするIT・クラウドサービスその他テクノロジー関連企業は、デジタルの基盤となるデータセンターなどを動かす半導体も世界的供給不足の解消に時間がかかる見通しであるものの、物理的な「モノ」の費用や供給制約の影響を受けにくい面があるだろう。
【香港株】逆風下の香港不動産株への投資視点
経営危機に直面している不動産開発大手の中国恒大集団の問題は、世界の金融市場に大きく及んでいる。この問題の背景・経緯をさかのぼると、2020年8月に決定し21年1月から実施された「三道紅線(3本のレッドライン)」の方針にたどり着く。3本のレッドラインとは、(1)前受金を除く負債の対資産比率が70%を超える(2)純負債の対純資産比率が100%を超える(3)現金の対短期借入金比率が100%未満を指し、この3条件に従って、紅、橙、黄、緑と4つのランクに分類される。この方針に伴い銀行は住宅ローンと不動産業界向け融資の抑制などが求められる。三道紅線の方針の実施期間は23年6月までとされる。
昨年8月末終値を100とした相対指数で見ると、10月11日では香港ハンセン指数がほぼ100と同水準にある。これに対し、対サブ・インデックスのハンセン不動産株指数は同日時点でハンセン商工業株指数とともに100を下回っているものの、9月20日に82台まで下落した後、10月6日に香港政府が香港北部の大規模な開発計画を公表したこともあり、香港地場不動産株を買い直す動きとともにリバウンドの兆しも見られ始めた。(画像クリックで拡大版にジャンプ)
19年2月に中国政府の国務院が制定した「粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区発展計画綱要」によれば、香港、マカオにおける「一国二制度」を堅持しつつ、香港・マカオの発展と広東省9都市の発展の融合を追求するとされている。国務院は今年9月、「粤港澳大湾区構想」が本格的に動き始めたことを受けて香港北西部と深センを結ぶ鉄道計画の「港深西部快速軌道」において前海と洪水橋をつなぐ路線の建設(前海構想)を進めると発表し、当初計画の8倍の土地の大きさで開発が進められることとなった。財務面の不安が小さい香港地場不動産株は投資の狙い目と言えるかもしれない。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
(写真:123RF)
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