<新興国eye>カンボジア、22年の最低賃金は194ドルで決着

新興国

2021/10/15 11:11

 22年1月1日から適用されるカンボジアの最低賃金は、月額194ドルで決着しました。現在は192ドルで、1.0%の上昇となります。

 カンボジアの最低賃金の上昇は、12年の61ドルから13年に80ドル(31.1%増)、14年に100ドル(25.0%増)、15年には128ドル(28.0%増)と急激なものがありましたが、労働諮問委員会で客観的基準を使用し始めた16年は140ドル(9.4%増)、17年は153ドル(9.3%増)、18年は170ドル(11・1%増)、19年は182ドル(7.1%増)、20年は190ドル(4.4%増)、21年は192ドル(1.1%増)と上昇幅が落ち着いてきています。22年の最低賃金は、新型コロナの影響で経済に不透明感が広がっている中、上昇幅が抑え込まれたものと見られます。

 最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表28名が参加する労働諮問委員会で討議されてきました。9月28日の会議において192ドル(21年と同額)で合意し、労働大臣に答申されました。この結果を受けて、フン・セン首相は、毎度おなじみの鶴の一声で2ドル増額を加えることを決定し、最終的に194ドルで決着しました。使用者側からの意見もあって、フン・セン首相による追加額は19年までの慣例だった5ドルから、20年は3ドルに、21年からは2ドルに縮減されています。

 内需振興のためにも、最低賃金の引き上げは必要不可欠ですが、急激な上昇は外国投資家の懸念となっていました。

 カンボジア政府では、最低賃金の検討に当たって、労働生産性上昇率や物価上昇率などの客観的基準を16年の最低賃金から使用し始めており、雇用者側も労働者側も納得感が高い決定方式が次第に定着しつつあります。20年と21年は、新型コロナの影響が大きく、工場の閉鎖や労働者の失業・一時帰休が大きな問題となっており、こうした情勢も反映したものと見られます。

 他方、19年8月から21年8月までの2年間の消費者物価上昇率は5.5%であるのに対し、最低賃金は2.1%しか上昇していません。カンボジアの実質賃金は目減りしている状態であり、失われた20年で賃金上昇が抑え込まれてデフレを招いた日本と同じような状況です。新型コロナウイルスの感染拡大収束後に、カンボジア経済回復のための国内需要を喚起する観点からは、少なくとも物価上昇に見合う実質賃金が確保できるような最低賃金の見直しが必要になるものと見られます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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