海外株式見通し=米国、香港
【米国株】SaaS企業に警戒信号、緩和縮小観測も逆風に
電子署名ドキュサイン<DOCU>の株価は、12月2日の決算発表を受けて翌3日に前日比40%減と急落した。コロナ禍に伴う特需に伴い6四半期にわたって成長が加速したものの、顧客が通常の購入パターンに戻ったことで成長が鈍化したことが嫌気されているようだ。しかし、これは同社に限ったことではなく、インターネットを介して必要な機能をサービスとして利用できるソフトウエアを指す「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」の企業全般に対して同様の懸念の目が向けられ始めている。
SaaS企業は「サブスクリプション」という継続課金型のビジネスモデルにシフトすることで、将来売上高につながるビリング請求額の伸びを基にして、将来利益成長見通しの下で、売上高や粗利益の水準にこだわらない大規模な販売・マーケティング費用と研究開発費で思い切った先行投資を行ってきた。株式市場は、このようなSaaS企業を主要「グロース」銘柄として利益成長を期待してきたが、11月10日発表の10月消費者物価指数が前年同期比6.2%上昇と31年ぶりの6%台になったあたりから、SaaS企業の株価を押し下げる方向へと風向きを変え始めた。
そして、11月30日にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が米議会証言で「テーパリング(量的緩和の縮小)の数カ月早い終了の検討が適切」と述べ、次回(12月14~15日)のFOMC(米連邦公開市場委員会)で議論する意向を示したことから、その逆風がさらに強まったように見受けられる。
その一方、キーサイト・テクノロジーズ<KEYS>のような電気・電子計測機器メーカーやマーベル・テクノロジー<MRVL>のような半導体チップメーカーなどは決算発表後もさらに上昇基調を強めている。グロース銘柄の中でも、SaaS関連と半導体・電子機器製造関連で明暗を分ける二極化が鮮明となりつつあるようだ。
【香港株】アジア取引所間競争で優位に立つ香港取引所
香港取引所の株価が11月末を境に上昇に転じている。中国配車サービス最大手の滴滴出行が12月3日に、米国市場の上場廃止手続きを始めると同時に、香港市場への上場に向けた作業を始めると発表。中国企業の香港上場が今後も増えるとの期待が市場に広がったもようだ。
一方で香港取引所の業績は好調に推移している。2021年1~9月は、総収益が前年同期比15.1%増となった。堅調な業績を支える主な要因・背景として、(1)引き続きIPO(新規上場)市場が強いこと(2)中国本土市場(上海・深セン)と香港市場の人民元建て相互取引の拡大が挙げられる。1~9月のIPO件数は、他市場との重複上場のセカンダリー(流通市場)上場4件に加えて、加重投票権が付された議決権種類株式(WVR)5件を含む73件に達した。
また、同期間の中国本土市場と香港市場の人民元建て相互取引に関して、株式に係る「ストック・コネクト」の1日当たり平均取引金額では、香港から中国本土向けの「ノースバウンド(北行き)」が同37%増、中国本土から香港向けの「サウスバウンド(南行き)」が同99%増に拡大した。債券に係る「ボンドコネクト」では、ノースバウンドの1日当たり平均取引金額が同33%増となった。
他の主要なアジアの取引所の業績を見ると、シンガポール取引所(SGX)の21年1~6月は、営業収益が前年同期比6.8%の減収。今年2月から米MSCI<MSCI>社によりMSCI指数を基にしたデリバティブ取引のライセンスがSGXから香港取引所に移管されたことが響き苦戦した。また、日本取引所グループ(=JPX、8697)の21年4~9月は、営業収益が前年同期比2.6%の小幅増にとどまっている。日本と香港、シンガポールの取引所間競争は、香港取引所が優位に立っている状況だ。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
(写真:123RF)
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