【2022・GWコラム】日電産・永守会長の野望に揺れる工作機械業界――次なる買収は?

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2022/4/28 17:31

 高い技術力に守られ、良くも悪くも長年変わらなかった工作機械業界に、新たな風が吹き込もうとしている。名うてのM&A(企業の合併・買収)巧者である日本電産(6594、2023年4月からニデックに商号変更予定)の永守重信会長は、この領域で1兆円規模の事業基盤を確立する目標を打ち出した。同社が進める関連企業の買収戦略も新局面に入りそうだ。

「30年安泰説」も今は昔?

 「多くの工作機械メーカーは景気が悪くなると赤字になり、環境が戻るとまた収益が回復するが、営業利益率は5~6%の域を出ない。もうずっとその繰り返し。海外生産も少ない。不思議な業界だ」。永守会長は持論を展開する。

 不思議な業界――。言い得て妙である。筆者が工作機械業界を取材し始めた2000年代の初めごろ、日本工作機械工業会で当時幹部を務めていたあるメーカーの首脳がこう語っていたのを思い出す。「向こう30年は安泰です」。

 機械部品を加工する故、「マザーマシン」と呼ばれる工作機械は、日本のお家芸とも言える領域だ。正確な位置決めや、さまざまな加工における微妙な力の調整、過酷な使用環境でもパフォーマンスを維持する耐久性。それらすべてにおいて、日本製はトップレベルに君臨する。

 しかし、「30年安泰説」を初めて耳にしてから既に20年近くが経過した。教示を賜った前出の幹部はもう鬼籍に入られたが、タイムリミットは刻一刻と迫っている。実際、中国製工作機械の技術力は向上してきており、「少なくとも汎用品については日本製と大差ない」と話す業界関係者もいる。

 一方で、業界の状況に大きな変化は見られない。ユーザーには中小・零細企業も多く、大胆な改革に乗り出しにくいといった事情もある。また、商社が複雑に入り組む販路や、製造を手伝う多くの協力工場の存在といった独特な文化も「不思議さ」の背景にある。そこに迫りくるアジア勢の影。危機感を覚える向きは少なくない。

 「だから私が入っていく」。永守会長は昨年、三菱重工業(7011)から日本電産マシンツール(旧三菱重工工作機械)を買収したのを皮切りに、マシニングセンターの老舗のOKK(6205)を傘下に収めた。工作機械事業の売上高目標として2025年に5000億円、30年に1兆円を掲げた。「これからさらに3社ぐらい買収する」(永守会長)という。

旋盤メーカーに熱視線

 工作機械業界はM&Aとも比較的縁遠かった。オーナー企業も多く、メーカーごとに異なる哲学が再編の障壁だ。10年代には日独大手の統合によりDMG森精機(6141)が誕生したものの、大きな流れは形成されていない。

 日電産の目指す売上高1兆円は、そのDMG森精機のピーク時や、ロボット事業を除いたファナック(6954)の年商の2倍近傍に相当する。永守会長の野望は日本の工作機械業界をどう変えていくのだろうか。

 また、気になるのが永守会長の新たなターゲットだ。乏しい知恵を絞り推測してみた。

 まず日本電産マシンツールは歯車(ギア)製造機を得意とし、OKKはマシニングセンターをカバーする。次に手にしたいと考える工作機械は、金属素材を切削するNC旋盤ではなかろうか。同社が力を入れる、EV(電気自動車)向けモーター製品との相性もよさそうだ。

 NC旋盤を手掛ける会社は、上場企業だけでも幾つかある。中でもOKKと同様に、中堅メーカーというカテゴリーに絞れば滝沢鉄工所(6121)と高松機械工業(6155)が浮上する。現在の時価総額はともに100億円を下回り、買収発表時のOKKに近い規模だ。念を押すが、これはあくまで筆者の推測である。

(鈴木草太)

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