【2022・GWコラム】「ゼロコロナ」が映す中国・習指導部の憂鬱

 中国の厳格な新型コロナウイルス対策が波紋を広げている。経済活動の制限に伴い物流がストップした影響は、現地に生産拠点を置く日本企業も直撃。世界の動きと逆行するかのような習近平国家主席の真意はいったい何か。同国で今秋開かれる5年に1度の共産党大会を前に、進むも退くも地獄という指導部の立場が浮き彫りになってきた。

ロックダウン、日本企業も直撃

 「ゼロコロナ」と呼ばれる、市民に厳しい隔離を強いる中国の感染対策。3月以降は上海をはじめ、20を超える都市でいわゆる「ロックダウン(都市封鎖)」の体制が敷かれた。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には食料不足などの窮状を訴える声が拡散。暴動すら起きかねない情勢だとも伝わっているが、北京でも大規模なPCR検査が行われるなど、当局が手を緩める気配はない。

 世界的に新型コロナの感染者数は収束していないものの、ワクチンの普及もあり重症者や死者はピーク時と比べて発生しにくくなっている。このため、欧米では行動制限の緩和や撤廃が主流となり、日本や韓国もそれに倣いつつある。

 こうした中での中国の政策には明らかな違和感がある。当初は北京冬季五輪・パラリンピック(開催期間は今年の各2月4~20日、3月4~13日)を念頭に置いたものとも考えられていたが、締め付けはその後むしろ厳しくなった。経済への影響も顕在化しつつあり、同国の1~3月期の実質GDP(国内総生産)は前年同期比4.8%増(通年目標は5.5%)と伸び悩んだ。

 中国市場で展開する日本企業にとっても深刻な事態だ。「上海港をはじめとする重要な物流インフラがロックダウンによってまひし、生産した製品を出荷できないケースが相次いでいる」(ファナック〈6954〉の稲葉善治会長)。このため、受注が増えても売上を計上できないジレンマが起きている。

上海「人質」説とウイルス凶悪化説

 経済を犠牲にしてもなおゼロコロナに固執する習指導部。どういった理由がそこにはあるのか。

 仮説の1つが、ウクライナ危機に端を発する経済制裁へのけん制だ。中国は2020年~昨年にかけて香港を非民主化し、台湾についても領有権を主張している。西側諸国にとってこれは受け入れがたく、最終的に中国が武力で台湾を侵攻するシナリオが根強く懸念されている。

 欧米はウクライナに侵攻したロシアに厳しい経済制裁で応じた。それは状況次第で、事実上ロシアを支持する中国にも及び、台湾問題とも密接に絡んでくるだろう。

 中国の影響力を西側諸国に再認識させる――。そうした狙いが習指導部にあれば、感染症対策を名目としたロックダウンも辞さなかったのかもしれない。いわば、上海など、世界経済の要となる自国の都市を「人質」にした格好だ。

 ただ、そうした戦略は世界がサプライチェーンの中国離れを加速することにもつながるもろ刃の剣になってしまい、あまり現実的ではない。そこで浮上するのが、「コロナ凶悪化説」だ。

 中国には現在、まだ世界が把握していない新型コロナの変異株が発生しており、感染力や重症化率がこれまでのものと比べて高いという見方。だとすれば、躍起になって抑え込むのも納得がいく。しかし、白日の下にさらされた際に国際的な批判を免れないリスクを踏まえると、やはりこの説もしっくりこない。

医療体制のぜい弱さ、政治的正念場に

 ではなぜか。考えられるのは、中国の医療体制のぜい弱さだ。国土が広大な同国では、新型コロナが都市から農村へととめどなく伝染していった場合に、適切な治療をできる医療施設が限られる。また、自国で開発したシノバックス社製のワクチンの有効性には従来から疑いが絶えない。

 つまり、先進国では脅威の度合いが縮小している新型コロナも、中国ではまだそうではないということだ。多数の死者を出せば習指導部の求心力は失われ、秋の党大会を乗り切ることが困難になる。もっとも、強硬な感染対策は景気を深刻に冷やしかねず、こちらも政権にとってのリスクとなる。自らの国家主席続投や、李克強首相の後継人事といった需要事案が控える中で、政治的な正念場を迎えていることは間違いない。

(写真:123RF)

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