トヨタ決算から一夜、市場はどう見る?
トヨタ自動車(7203)が市場予想を大幅に下回る今3月期の業績見通しを発表してから一夜が明けた。午後1時25分の決算発表後に急落した11日の終値2082円(前日比4.4%安)に対し、同日夜のADR(米国預託証券)の円換算値は2040円(同5.6%安)となお水準を切り下げる情勢だ。
原材料高の影響膨大、逆風共有で市場と温度差
同社は今期、資材費の高騰が1兆4500億円の減益インパクトをもたらす厳しい想定を示した。一方で為替の円安メリットに関しては、前提レートを1ドル=115円(前期比3円円安)と時価(同約130円)に対し極めて保守的に設定。いわば交易条件の不利な面だけを反映する形で、連結営業利益の見通しを前期比20%減の2兆4000億円とした。
トヨタの今期営業利益の直前の市場コンセンサスは、会社計画より1兆円大きい3兆4000億円だった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は決算後のリポートで「トヨタがスポットレートとかけ離れた円高を前提に減益計画を打ち出すのは異例」とし、あえて時価に近い為替前提を採用しなかった経営陣の危機感の強さを指摘した。
リーマン・ショックや東日本大震災、品質問題など数々の苦難を乗り越えてきた同社は、収益体質を着実に高めている。実際、2009年3月期を100とした損益分岐台数は、60~70にまで低下したという。しかし、為替前提を抜きにしても、今期の利益予想はマーケットとの期待とギャップが広い。背景にあるのは、同社が選択した「逆風の共有」だ。
「(1兆4500億円の)原料高見通しはサプライズ」(野村証券)。トヨタは急激なインフレを踏まえ、サプライヤーの値上げ要求に積極的に応じているもよう。従来は対象としなかった材料や、燃料高などの部品価格への反映も柔軟に受け入れることで、取引先に配慮している。半面、販売面では「商品は地域軸とラインアップを重視する」(トヨタの長田准執行役員)といい、新車価格への一律での原材料高の転嫁を避ける考えだ。
なお競争力高いが不透明感ぬぐえず
厳しい事業環境の中でも「独り勝ち」に走らないスタンスが、株式市場では「ネガティブサプライズ」を招いた格好。それでもなお、事実上の最低ラインとしての2兆円台半ばの営業利益ガイダンスを打ち出せる同社の競争力は高い。野村証は為替前提を1ドル=120円とした上で、今期の同社の営業利益を3兆1864億円と予想(従来3兆8797億円)。目標株価を2750円から2400円に引き下げたものの、投資判断は「Buy(買い)」を継続した。
一方、短期的なリスクとしては、生産台数の下ブレが挙げられる。同社は今期、連結販売台数885万台(前期比7.5%増)、生産台数970万台(同13.2%増)を見通す。しかし、半導体などの部品不足が深刻化する中で、月産台数の計画引き下げが相次いでいる。このため、中・長期での投資魅力の高さを意識しつつも、根強い業況の不透明感が株価の上値を重くする可能性がある。
(写真:123RF)
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