<新興国eye>カンボジア中銀、「銀行監督年次報告書2021」を公表

新興国

2022/6/24 12:04

 6月1日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行 (NBC)は、「銀行監督報告書2021(英語版)」を公表しました。この報告書は年1回発表されますが、カンボジアの銀行セクターについて詳細なデータも含まれています。

 20年は新型コロナの影響を受けてカンボジアのGDP(国内総生産)成長率はマイナス3.1%に沈みましたが、21年は約3%にまで回復しました。ワクチン接種が進展し、2回接種率は90%以上に達したことにより、21年11月には経済を開放できたことが大きかったとしています。輸出志向型製造業が予想以上に健闘した一方、観光セクターの回復には時間がかかるものと見られます。そうした中で、金融セクターは、比較的に耐久力があり健全性を維持したことに加え、新型コロナの影響で返済が困難になった顧客を守ることもできたとしています。

 21年末の商業銀行54行・特殊銀行10行の総資産は、20年末から17.5%増加して244.5兆リエル(約600億ドル:約7兆8000億円)に達しました。21年末の貸付残高は、前年末比22.1%増の164.5兆リエル(約404億ドル:約5兆2500億円)となりました。預金残高も、前年末比16.6%増の142.9兆リエル(約351億ドル:約4兆5600億円)となっています。

 貸付先をセクター別シェアで見ると、小売15.8%、住宅(個人向け)13.6%、卸売9.4%、建設9.3%、個人向け9.2%、不動産8.6%、農林水産業7.8%等となっています。不動産セクター(住宅、建設、不動産)向けは、2020年からは若干増加しています。

 平均不良債権比率は、19年末2.0%、20年末2.1%、21年末2.0%と横ばい状態で、引き続き問題ない水準にあります。

 NBCでは、金融の安定性と持続可能で包括的な成長を確保するため、国際的監督基準等に配慮しつつ、効果的な銀行監督を強化してきたとしています。新型コロナの影響下でも、金融のシステムリスクを軽減できたと分析。20年には、中央銀行デジタル通貨のバコンの使用も世界に先駆けて開始できました。また、国家金融包摂戦略の推進、金融リテラシーの向上、消費者保護拡充等にも引き続き取り組んでいくとしています。

 20年以降、新型コロナの影響はカンボジア経済に大きな打撃を与えました。しかしながら、金融システムが揺らぐことはありませんでした。銀行の健全性を維持するための様々な規制や銀行監督が奏功したものと見られます。また、新型コロナの影響で返済が困難になった顧客については、返済を猶予する等の貸付条件の変更に柔軟に応じたことも評価されます。しかし、新型コロナの終息後には、この貸付条件緩和の終了が見込まれ、不良債権が増加してくる可能性もないとは言えません。今後の状況については、引き続き留意する必要があるものと見られます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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