永濱利廣のエコノミックウォッチャー(30)=景気予測調査から占う決算見通し

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2022/9/30 17:30

 9月13日に公表された7~9月期法人企業景気予測調査は、今年8月下旬にかけ1000万円以上の法人企業に対して行った景気予測調査。今期の企業業績計画の先行指標として注目される。本稿では、10月下旬からの四半期決算発表で、コロナ禍やウクライナ危機の中でも上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

売上高・経常利益とも計画上方修正

 売上高の計画は製造業、非製造業とも増収率が従来のものから上方修正されている。また、経常利益もそれぞれ増額されているが、輸入原材料の高騰などにより、製造業は減益計画の姿に変化はない。

 四半期決算で、今期の売上高計画の上方修正が期待される業種を見通してみたい。今期は「鉱、採石、砂利採取」以外の全業種で前期比増収を見通しているが、中でも引き上げ幅が大きいのは「電気・ガス・水道」「生活関連サービス」「リース」「石油・石炭製品」「その他の輸送用機械」であり、特に電気・ガス・水道と生活関連サービスは10ポイント以上の上方修正率となっている。

 生活関連サービスの内訳は、われわれの生活に密着したクリーニング業や理容業、美容業、銭湯、スーパー銭湯、エステティック業、リラクゼーション業、ネイルサービス業、旅行業、結婚相談業、家事サービス業、冠婚葬祭業など。コロナ後の社会生活の正常化が追い風になる業種と言える。

 一方、電気・ガス・水道や石油・石炭製品、リース、その他の輸送用機械については、売上が拡大する半面、経常利益が大幅な減益予想になっている。ロシアのウクライナ侵攻などに伴い化石燃料や仕入れ価格の水準がさらに上昇した影響が大きいことが推察される。

「生活関連サービス」「農林水産」「運輸」など増益率拡大

 経常利益の計画は、国際商品市況の高騰を背景に多くの業種で減益が見込まれる。しかし、こうした中でも旅行業を含む生活関連サービスのほか、「運輸、郵便」「職業紹介、労働者派遣」などは上昇修正幅が大きく、リオープン(経済活動再開)に伴うモノやヒトの動きの活発化が影響しているもようだ。

 また、前回調査で大幅な減益計画だった「農林水産」も、一転して大幅増益計画に上方修正されている。世界的な食料不足や円安を背景に、日本の農林水産品の国際競争力が向上したことや、政府による飼料価格の高騰対策が寄与した可能性がある。「情報通信機器」は、半導体などの部品不足が軽減し、供給拡大へ向かうとみられる。

 なお、日銀がまもなく公表する9月短観の業種別収益計画(大企業)は、法人企業景気予測調査に比べて聞き取りのタイミングが若干遅いことから、ウクライナ危機やコロナ後の景況感の回復といった要素をより強く織り込んでいる可能性が高い。このため、9月短観における大企業の収益計画も四半期決算と今期業績見通しを読み解く手掛かりとして注目したい。

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【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。

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