永濱利廣のエコノミックウォッチャー(32)=2023年経済界展望

コラム

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2022/12/6 17:25

 2022年の世界経済を振り返ると、前半はコロナ禍の影響で日中経済が悪化した一方で、後半はインフレの加速に伴い欧米経済が失速した。今後の情勢はどうなるのか。23年を展望したい。

22年は前半中国・後半欧米が悪化、「実感なき回復」の日本

 22年の低調は特に中国が顕著で、不動産セクターの調整やゼロコロナ政策に伴うロックダウン(都市封鎖)の影響などもあり、年前半の景況指数が拡大・縮小の分岐点となる50を割り込んだ。一方、欧米経済はコロナ禍からの正常化にロシアのウクライナ侵攻が重なり、急激なインフレと中銀の金融引き締めが年後半の景気に影を落とした。

 日本はどうか。22年の日本経済を一言で表現すると、「実感なき景気回復」だ。確かに日経平均株価は海外の株価指数に比べて相対的に底堅く推移した。ただ、サービス業を中心に経済活動は再開したものの、半導体などの部品不足の緩和が限定的だったこともあり製造業の巻き返しは限定的なものにとどまった。また、円安などにより輸入物価が高騰したことで、家計や中小企業を中心に負担が増加した面もある。

 23年の景気を占う上では、岸田政権が打ち出した物価高克服のための総合経済対策の効果が大きなカギを握るだろう。中でも物価高騰対策と賃上げの取り組みの成果は経済状況を大きく左右する。継続的な賃上げの促進という点で、来年の春闘がいつも以上に重要になる。

 また、円安を生かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化としては、コロナ禍からの需要回復、地域活性化が期待される。特に、大阪万博が開催される25年までにインバウンド(訪日外国人観光客)消費を政府目標の5兆円に到達させるためには、23年に1.5兆円のインバウンド消費の拡大が求められる。

インフレ長期化が最大リスク

 「新しい資本主義」の加速の側面では、5年で1兆円と掲げられた「人への投資」がどの程度顕在化するか、また、22年にGX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)、レジリエンスの強化に向けて大きく盛り上がった設備投資や成長分野における大胆な投資の促進がどこまで進むかも焦点だ。

 なお、22年は公共投資が大きく落ち込んだことを踏まえると、23年は国民の安全・安心の確保として、防災・減災・国土共振化の推進、自然災害からの復旧・復興の加速が期待される。

 一方、23年の日本経済の最大のリスクは、インフレの長期化により想定より海外の金融引き締めが長引くことだろう。仮にそうなれば、金融市場の混乱を通じて実体経済に悪影響が波及することは避けられない。米国など海外がリセッション(景気後退)に陥れば、行き過ぎたドル高・円安は是正されるものの、輸出や設備投資の落ち込みを通じて日本経済への打撃も避けられない。

 また国内では、岸田政権の支持率が低迷しており、今後も歯止めが掛からなければ政治的な不安を通じて市場に混乱が生じる可能性もある。岸田政権をめぐっては、金融所得課税の見直しをはじめとする増税のリスクもある。

日銀人事など注視

 このため今後の政局次第では、マーケット環境の悪化を通じて日本経済にも逆風が強まる。日本株の売買は6割以上を外国人投資家が占め、政権基盤が盤石なほど、外国人が日本株を保有しやすくなり、基盤が揺らぐほど手放されやすくなる。

 なお、23年春に執行部人事が一新する日銀の政策運営も変動要素だ。特に、日本経済の回復が不十分な状況で金融緩和策の見直しが進む展開が懸念される。また、海外の中銀のオーバーキル(過剰な引き締め)が、短期的に金融市場に大きな変動をもたらす可能性があり、日本経済への悪影響も無視できない。

【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。

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