アナリストの視点:2022年は史上初の資金流出がほぼ確実な米国籍ファンド、2023年はETFの残高増でパッシブ比率5割越えも

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2022/12/9 9:30

10月末時点でのマイナスは過去30年間で初、残り2カ月で2千億ドル超のプラスは期待薄

 米国モーニングスターの推計によると、ETFを含めた米国籍ファンド全体の年間の純資金流出入額(流入額―流出額)では、2022年は「史上初」のマイナスに(流入額よりも流出額が大きく)なりそうだ。100年に一度と評された金融危機下の2008年でも、ファンドのマイナスをETFのプラスで補い、全体では31億ドルのプラスとなっており、集計可能な1993年以降では2021年まで29年連続でプラスを記録してきた(図表1参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。

 一方、2022年は10月末までの累計で2,314億ドルのマイナスとなっており、同月末時点でのマイナスは過去30年間で初。今後、11月と12月の集計結果が出てくるものの、過去の傾向をみても両月が他の月よりも資金を集めやすいといった季節要因などはみられなかったことに加え、月次の純資金流入額で1,000億ドル超のプラスとなったのは過去357カ月中8カ月にとどまり、うち6カ月は大規模量的緩和下の2020年から2021年に記録していた。量的引き締め下にある現在の状況において、2カ月連続で1,000億ドル超のプラスは期待しづらく、2022年は年間で「史上初」のマイナスとなることがほぼ確実な状況だ。

4年相当分の資金が流入した2021年の反動とアクティブ離れが主因

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 「史上初」のマイナスが見込まれる主な要因は、前年の反動とアクティブ離れの加速だ。まず、2021年の年間純資金流出入額をみると、全体では1兆2,132億ドルのプラスと、それまでの過去最高だった2017年の6,867億ドルの2倍弱、2020年までの過去28年間の平均の2,729億ドルに対しては4年分以上に相当する。特に資金を集めたのがパッシブETFで、2021年は年間で8,183億ドルのプラスと、全体をプラス方向に大きく押し上げた(図表2参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。

 パッシブETFの個別では、株価が好調に推移したS&P500やNASDAQ100などの米国株価指数連動型が流入額ランキングのトップ5を独占し、新興国株価指数や物価連動債指数の連動型なども資金を集めた。その他にも、カバード・コール戦略を採用した毎月分配型の『グローバルX NASDAQ100・カバード・コール ETF』が44億ドルのプラス、ビットコイン価格連動型の『グレースケール・ビットコイン・トラスト』が19億ドルのプラスとなるなど、約2,100本あるパッシブETFのうち、7割弱がプラスとなり、過剰流動性相場下でほぼ「何でも買い」の様相を呈していた。一方で、2022年には、利上げ、株価の調整、量的引き締めの開始などから、パッシブETFへの資金流入もペースダウンし、10月末までの合計では4,242億ドルのプラスと、前年からはほぼ半減、2017年や2020年とほぼ同水準となっている。個別でもプラスとマイナスがほぼ半分ずつだ。

 なお、2021年の全体での1兆ドルを超えるプラスは、ITバブル期や金融危機時の前後にもみられなかった規模で、過剰流動性相場における「金余り」がいかに異常な規模だったかを示している。そうした状況下では、金融商品の一角において、単に数年分を先取りしただけでなく、あり得ない想定や前提に基づいて評価されたことで、価格面でも一時的に異常値をつけている場合がある。にもかかわらず、例えば2021年につけた価格を参考にして、その高値から何割程度下がったから、もう調整は十分だろう、などといったことだけを頼りに投資を行うと、さらなる価格の下落によって容易には回復できない損失を被る可能性がある。また、容易に売買ができない、手に入らないものは特定の人だけが購入可能で価値がある、価格はより高くあるべきなどといったプレミアム感があるような錯覚に陥る場合があるが、量的引き締めの過程では、一転して流動性の低い資産の価格は買い手が不在となって、大きく値崩れを起こす場合がある点にも注意が必要だ。

 次に、アクティブファンドについて年間の純資金流入額をみると、2021年は1,659億ドルのプラスと、2014年以来のプラスとなっていたものの、一転して2022年は10月末までで7,736億ドルのマイナスと、これまでの過去最高だった2018年の3,365億ドルの倍以上のペースで流出している。目立ったのが債券の4,543億ドルのマイナスで、2009年から2021年までの13年中10年でプラス、特に2019年以降は3年連続で2,000億ドル以上のプラスとなっていたが、2022年に本格的な金利上昇局面に入ると、投資家は一斉に資金を引き上げた(図表3参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。1993年まで遡っても、年間で500億ドルを超えるマイナスとなったのは1994年、2000年、2013年、2015年の4年しかなく、2022年のマイナスはスピードと規模ともに過去にはみられなかったものだ。また、アクティブファンドの債券は、カテゴリーでは36に分類されるが、2022年は34のカテゴリーでマイナスと、ほぼ「全部売り」の状況にある。

2022年がETFの更なる活用と債券のアクティブ離れの転換点となる可能性も

 このような米国の資金動向からすると、2022年は2つの点で大きな転換点となる可能性がある。第一に、今後はETFの活用がさらに進み、いずれ運用の中心的存在となることが見込まれる点だ。なぜなら、米国の投資家にとっては、ETFの方が(1)コストの低さ、(2)手数料の分かりやすさ、(3)取引の自由度の高さで、選択しやすいと思えるためだ。

 (1)コストについては、日本の信託報酬に類似のエクスペンスレシオをみると、債券の中で最も純資産額の多いカテゴリーである「中期コア債券」に属するパッシブの単純平均は、ファンドの0.28%に対し、ETFは0.08%となっている。その他の資産でも、ETFはファンドよりも低い傾向にある。(2)手数料については、ファンドはエクスペンスレシオ、購入時及び途中解約手数料などを含めて米国では様々な料率や体系がある。近年は購入時手数料の無料化も進んでいるようだが、ETFの窓口となる証券会社の株式等の売買手数料の無料化も進んでおり、主としてエクスペンスレシオだけを考慮すればいいETFの方が分かりやすい。(3)取引の自由度は、ETFは株式と同様に高い。その株式は、米国では家計の金融資産の4割を占めており、親和性の高さでも優位となりやすい。

 第二に、これまで米国株が中心だったアクティブ離れが、今後は債券でも本格化する可能性がある。米国株のアクティブファンドは、2022年は10月末までで1,876億ドルのマイナスと、年間では17年連続のマイナスとなるのがほぼ確実で、長年にわたる資金流出の契機の一つとなったのが金融危機後の運用成績の悪化だ。2022年の債券の運用成績の悪化は、米国株のアクティブ離れの初期段階を想起させる。具体的には、2022年10月末時点運用されている債券のアクティブファンド約1,800本のうち、94%の年初来トータルリターンがマイナス。カテゴリー「中期コア債券」では、『iシェアーズ・コア 米国総合債券市場 ETF』が年初来トータルリターンで上位29%となっており、アクティブファンドの劣後が目立つ。債券のアクティブファンドには2021年にかけて資金を投入してきた投資家が多いだけに、2022年の運用成績の低迷に投資家の不満はかなり高まっているはずだ。

パッシブの残高ではETFがファンドを上回る、アクティブはETFの活用が鍵か

 ここまではファンドの純資金流出入額(フロー)についてみてきたが、最後に純資産残高(ストック)についてもみておきたい。過去の純資産残高比率では、パッシブの比率は、金融危機以降はETFとファンドがほぼ同じような比率で上昇してきており、2016年12月末時点ではETFが16.8%、ファンドが16.7%となっていた。しかし、その後はETFの比率の方がより高まる傾向にあり、2022年10月末時点ではETFが26.7%、ファンドが20.4%となっている(図表4参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。

 これまでは、主にファンド選びの際にアクティブとパッシブのいずれにすべきか、といった形で表現されることが多かったが、投資家には株式や債券などを直接保有するという選択肢もある。株式等とファンドの中間的な仕組みのETFが普及し、パッシブと直接保有に関わるコストは一段と低下する中、投資家がポートフォリオ全体の中での組み合わせや配分として考えた場合、分散投資を重視したパッシブのファンドやETFのみ、もしくはアドバイザーの助言などに基づいたオリジナルのポートフォリオとしてのパッシブと個別株などの組み合わせを選択する投資家がより一層増加してくるものと予想される。2023年中にもパッシブETFの比率が30%に近づき、ファンドとの合計でのパッシブ比率が50%越えとなる可能性もありそうだ。

 一方で、アクティブファンドの運用成績やコストに対する投資家の目線はさらに厳しくなるのは間違いなく、低コスト化や流動性を重視してETFの活用や転換が進みそうだ。実際、2022年には300本以上のETFが新たに設定されているが、6割強がアクティブとなっている。ただし、2022年10月末時点におけるアクティブETFの純資産残高比率は1.4%にとどまる。アクティブETFは、一般的なパッシブ、複数銘柄による個別株等のポートフォリオとの違いはもちろんのこと、パッシブに含まれる高配当、バリュー・グロースなどのスマートベータ型との差別化も必要で、継続的に投資家の資金を集めるハードルは低くない。一貫した資金流入がついに途絶えそうな中で、米国の投資家がどのような判断をするのかが注目される。

(吉田 誠)

(写真:123RF)

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