海外株式見通し=米国、香港
【米国株】生産制約で航空関連に注目
今年の見通しに関し、昨年12月に世界最大の資産運用会社であるブラックロック(BLK)が公表した「2023 Global outlook」が参考となる。
それによれば、中央銀行の金融政策は生産制約を解消する手段とならず経済の需要側にだけ影響を及ぼし、需要を抑え込むことに伴う景気後退入りの公算が生じているという。他方、生産を制約し続けている新たなレジーム定着を促す3つの長期トレンドとして、(1)人口高齢化に伴う慢性的労働不足(2)地政学的緊張の高まりに伴う脱グローバル化と供給網再構築の流れ(3)炭素排出ネットゼロへの移行によるエネルギー需給のミスマッチ――を挙げている。
さらに3つのテーマとして、(1)景気後退を織り込んだ上で市場のリスク心理が改善するかどうか(2)債券と株式の逆相関が薄れる中で債券投資を長期国債、短期国債、投資適格社債など区別してち密に分析すべきこと(3)「インフレの政治問題化」から「景気後退の政治問題化」――に関心が移り、インフレとの共存が求められるようになるとしている。
生産制約が顕著になりそうな分野は航空機だろう。中国が8日にゼロコロナ政策を事実上終了して国境をまたぐ移動のさらなる急回復が見込まれる中、大手航空会社が数百機単位でボーイングなどに発注する動きが相次ぐ。ただ、供給網の制約のため納入に時間がかかることが想定され、受注残が積み上がるほか航空運賃高騰が加速する可能性が高い。
海運のコンテナ不足とコンテナ運賃高騰、あるいは自動車の新車生産が追い付かずに中古車や部品の需給がひっ迫したように、「海」「陸」と来て今年は「空」の年となるのだろうか。製造が追い付かない間は補修や部品交換の需要が高まると見込まれることから航空部品メーカーには好機だろう。なお、航空機および航空部品メーカーは地政学リスクの高まりの中で軍事面での重要性が増している点でも注目される。
【香港株】「3本のレッドライン」緩和方針、不動産企業に期待
中国政府はゼロコロナ政策の終了に続き、2020年8月に決定し21年1月から実施された「三道紅線(3本のレッドライン)」の方針も緩和の方向に傾いている。
3本のレッドラインとは、(1)前受金を除く負債の対資産比率が70%を超える(2)純負債の対純資産比率が100%を超える(3)現金の対短期借入金比率が100%未満――を指し、この3条件に従って、紅(あか)、橙(だいだい)、黄、緑と4つのランクに分類するもの。
この方針に伴って銀行は住宅ローンと不動産業界向け融資を総融資残高の40%までに抑制すること、また、不動産開発業者のランクに応じて新規借入の条件として既存債務の返済を義務付けることが求められる。三道紅線の実施期間はもともと23年6月までとされているが、前倒しでの終了が期待される。
ハンセン指数構成銘柄のうち、李兆基氏の恒基兆業地産(ヘンダーソン・ランド・デベロップメント)、鄭一族の新世界発展(ニューワールド・デベロップメント)、李嘉誠氏の長江実業集団(CKアセット・ホールディングス)、郭一族の新鴻基地産発展(サンフンカイ・プロパティーズ)など大物実業家が経営する企業、中国政府の内閣に相当する国務院系の不動産開発業者である中国海外発展(チャイナ・オーバーシーズ・ランド&インベストメント)や華潤置地(チャイナ・リソーシズランド)といった投資家の信用度が高いとみられる銘柄の株価について、21年末終値を100とする相対指数で見ると、中国政府系の中国海外発展や華潤置地が相対的に堅調に推移している。
特に香港を拠点とする不動産開発業者にとっては、「粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区(グレーターベイエリア)」構想が追い風となろう。香港、マカオにおける「一国二制度」を堅持しつつ、域内における各用紙の自由な移動など香港・マカオの発展と広東省9都市の発展の融合を追求するとされている。
※右の画像クリックでグラフ拡大
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
(写真:123RF)
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