<新興国eye>カンボジア中央銀行、2022年のマクロ経済と銀行セクター開発および2023年の展望

新興国

2023/1/27 8:52

 1月6日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、「2022年のマクロ経済と銀行セクター開発および2023年の展望」を発表しました。2022年の世界経済は、中国のゼロコロナ政策やロシアのウクライナ侵略等の問題に直面しました。インフレが進行し世界全体では物価上昇率は8.8%に達しました。そのため、米国を始めとして中央銀行は金融引き締めを行い、ドル高や金利上昇を招いています。

 こうした中で、カンボジアは、ワクチン接種の進展を基盤としてwithコロナ政策が成功し、国内経済の回復が進みました。更に、主要輸出先国の需要回復もあって、カンボジアの2022年の経済成長率は5.1%にまで回復しました。製造業の成長率が9.8%と経済全体をけん引しました。輸出も対前年比19.8%増加と大幅に回復しました。外国直接投資も4.0%増と経済を下支えしました。輸出と外国直接投資の伸びにより、外貨準備も輸出の7か月分という安定的なレベルを維持しています。

 この外貨準備を背景に、為替も安定し、リエルの対ドルレートは、対前年比0.1%安の4102リエル/ドルと安定的でした。世界的なインフレの影響はあったものの、為替の安定もあって、2022年の物価上昇率は5.3%にとどまりました。物価上昇率は2021年の2.9%から、2022年6月には7.8%にまで高まりましたが、2022年後半は国際石油価格の落ち着き等もあり、カンボジアの物価も落ち着いてきています。

 カンボジアの銀行セクターは、NBCの金融緩和政策・新型コロナ対応策等もあって、2022年も大きな変動なく発展しました。民間向け貸付は21.0%増、預金も11.3%増と順調でした。2022年には、NBCは新型コロナ対策からの出口政策を進め、新型コロナで返済困難となった借入人向けの貸付条件緩和を2022年6月末に終了しました。条件緩和貸付の貸付全体に占めるシェアは、2021年の10.5%から2022年は6.0%にまで低下しています。また、NBCは銀行セクターのデジタル化を振興し、電子口座数は1790万口座にまで増加しています。

 2023年の世界経済は引き続き、ロシアのウクライナ侵略や欧米の金融引き締め等により、不確実性が高い状況です。国際通貨基金では、2023年の世界経済の成長率予測をこれまでの3.2%から2.7%に引き下げています。こうした中で、カンボジア経済は引き続き成長を続け、成長率は6.0%に達すると予測されています。縫製業は6.9%、縫製以外の製造業は14.3%成長すると見ています。また、新型コロナの影響を最も厳しく受けていた観光業の成長率も、中国の観光客増加が期待され、18.5%に達するとしています。

 他方、農業の成長率は1.1%に留まる見込みです。中国からの投資が弱含んでいる建設業、不動産業はそれぞれ1.7%、1.2%の成長に留まるものと見られます。2023年の物価上昇率は落ち着きを見せ、2.5%となると予測しています。為替については、米国の金融引き締めに伴うドル高が続くと見られ、高度にドル化された経済であるカンボジアは、輸出面で他国との競争条件が悪化する懸念があります。金融セクターについては、米国等の国際市場での金利上昇がカンボジアにも波及する可能性があります。なお、輸出の伸びに加えて、外国直接投資も安定的な流入が見込まれ、外貨準備は輸入の7か月分という高いレベルを維持するものと見られます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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