永濱利廣のエコノミックウォッチャー(35)=花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響
・1~3月個人消費を3800億円押し下げか
・家計消費は平年比0.7%減少へ
・乳酸菌関連食品やドラッグストアには追い風も
今春は花粉の大量飛散が観測され、その規模は過去10年で最多になるとも言われている。昨夏の猛暑が背景にあると考えられ、経済全般への下押し圧力が懸念される。
もはや「国民病」となった花粉症。大量飛散となれば外出控えにもつながり、まずは個人消費に悪影響を及ぼす恐れがある。具体的にはレジャーや小売、外食産業の売上不調を招くとみられる。
実際、1~3月期の家計消費支出は、花粉の飛散量の一要因とされる前年夏の気温と関係が深い。7~9月期の気温が前年を上回った翌春の消費はおおむね減少しており、猛暑は翌春の個人消費にとってマイナスであることが示唆される。
さらに1~3月期の家計消費水準指数の伸び率と前年7~9月期の平均気温(全国平均の前年差)の相関を品目ごとに見ると、2000年代以降では外食を含む「食料」、レジャー関連を含む「教養娯楽」、外出頻度が増えれば支出されやすくなる「被服および履物」に関して前年夏の平均気温と比較的強い負の相関関係が現れている。
一方、外出頻度が下がれば支出が増えやすくなる「光熱・水道」や、薬やマスク・医療費などを含む「保健医療」、空気清浄機などを含む「家具・家事用品」などの支出で正の相関関係が表れている。
また、店舗形態別の売上との関係は、「百貨店」が花粉の大量飛散による強い負の相関が観測される一方で、「スーパー」は正の相関がみられる。これは、花粉症になると百貨店に遠出して買い物する頻度が少なくなる半面、近所のスーパーやネットスーパーでの購入頻度が高くなるためと推測される。
経済の平均成長率が4%程度あり、なおかつ花粉症患者が少なかった1980年代までならこうした要因が個人消費に悪影響をもたらすことは想定しにくかっただろう。しかし、90年代以降はバブル崩壊により経済の平均成長率が1~2%程度に低下する一方、花粉症患者も増加している。
なお、経験則によれば花粉の飛散量で業績が押し上げられる代表的な業界としては、製薬関連やドラッグストアがある。また、商品はカーテンやメガネ類のほか、乳酸菌関連食品も大量飛散時に売上が大きく伸びている。
では花粉の大量飛散による今年の日本経済へのインパクトはどの程度になるだろうか。総務省の家計調査を用いて、過去のデータから前年7~9月期の平均気温と1~3月期の個人消費の関係式を作成し試算したとこと、7~9月期の平均気温が1度上昇すると、翌年1~3月期の実質家計消費支出が0.5%押し下げられることが分かる。
したがって、昨夏の平均気温が平年より1.4度高かったことに基づけば、今年1~3月期の実質家計消費への影響は、マイナス0.5%×1.4度=マイナス0.7%(マイナス3831億円)とはじかれる(平年比)。そして、産業連関表の付加価値誘発係数を参考にすると、同時期の実質GDP(国内総生産)は同マイナス0.2%(マイナス3272億円)減少する計算になる。
同様に前年比への影響を見れば、昨夏の平均気温が前年より0.9度上昇したため、今年1~3月期の実質家計消費は前年比でマイナス0.5%×0.9度=マイナス0.4%(マイナス2455億円)、実質GDPが同マイナス0.2%(マイナス2096億円)押し下げられることになる。
データが十分ではないため、この推計結果は幅を持ってみる必要があるが、花粉の大量飛散は身体だけでなく、経済にもダメージを与える可能性があるといえよう。また、大量飛散により新たな花粉症患者が増加すれば、悪影響がさらに拡大してしまうかもしれない。特に足元では、値上げや消費マインドの悪化も重なっているだけに、今後の個人消費の動向にはリスク要因が潜んでいることに注意が必要だ。
【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。
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