永濱利廣のエコノミックウォッチャー(37)=3月短観から占う23年度業績見通し

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2023/4/30 15:00

 4月に出た日銀短観(3月調査)は、それに以前に公表された法人企業景気予測調査に続く企業業績の先行指標として注目される。3月期の本決算の開示(ピークは5月12日)も本格化し始めたこのタイミングで、改めてデータに基づき今年度の収益拡大が見込まれる業種を予想してみたい。

経済再開効果で「宿泊・飲食サービス」など収益拡大へ

 3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期ごとの収益を見ると、売上高は2023年度(24年3月期)に下期にかけてプラス幅(前年同期比)が縮小するものの、上期・下期とも増収を想定している。一方、経常利益は22年度下期が前回から上方修正された半面、23年度は減益に転じる予想だ。こうした「増収・減益見通し」の傾向が決算でも強まる可能性がある。

 ただ業種別にみると、23年度下期の経常利益計画は非製造業が減益幅を広げる一方、製造業は増益に転じている。22年度下期以降は半導体や機械のサイクルが下降局面に入ったことを踏まえると、この時期に景気循環的に業況が上向くだろうという見方が製造業の増益予想の後ろ盾になっている可能性がある。

 続いて、3月短観の売上高計画を基に、大幅増収が見込まれる業種を選定してみたい。23年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが「宿泊・飲食サービス」(プラス4.4%)である。「はん用機械」もプラス4.1%、「対個人サービス」もプラス3.4%とそれぞれ高い。

 宿泊・飲食サービスや対個人サービスは、新型コロナウイルスの影響緩和で旅行やインバウンド(訪日外国人観光客)の増加といった経済活動の再開が増収予想の背景にあるとみられる。一方、汎用機械は「ポンプ・圧縮機械」「ボイラ・原動機」「一般産業用機械・装置」などのサブセクターで構成される。このため、中国経済の回復や、経済正常化に伴い生じている人手不足への対応が、企業の設備投資に結び付いていることが追い風と推察される。

原材料高一服も影響、為替リスク念頭に

 経常利益については、増益率が最も大きいのはやはり宿泊・飲食サービス(プラス20.8%)だ。なお、対個人サービスや、人材派遣業を含む「対事業所サービス」も同様の理由で増益計画となっている。

 それに続くのが、中国経済の回復や半導体などの部品不足緩和が期待される自動車以外の「その他輸送用機械」(プラス8.5%)となる。なお、「紙・パルプ」については、増収率が控えめながら増益の計画であることから、原材料価格の低下が寄与している可能性がある。

 3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表される。大企業製造業の前提は1ドル=132.1円、1ユーロ=137.7円だ。輸出関連の製造業は1ドル=130円台が多く、インフレ率の減速や雇用環境の悪化、さらには各国の政治動向に伴うリスクオフを通じて為替が円高方向に進めば、各社の業績の下方修正要因となる点に注意する必要がある。

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【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。

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