<新興国eye>タイ中銀、予想通り0.25ポイント引き上げ―インフレ上振れリスクを警戒

新興国

2023/6/1 8:54

 タイ中央銀行は5月31日の金融政策委員会で、インフレ上振れリスクを緩和するため、政策金利である翌日物レポ金利を0.25ポイント引き上げ、2.00%とすることを全員一致で決めた。市場の大方の予想通りだった。一部では現状維持を予想していた。

 中銀は20年6月から22年6月まで16会合連続で政策金利を据え置いたが、通貨バーツ安とインフレ上振れリスクが強まったとして、22年8月会合で18年12月以来、3年8カ月ぶりに利上げ(0.25ポイント)に転換した。これで利上げは6会合連続となり、利上げ幅は計1.50ポイントに達した。

 中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げを決めた理由について、「タイ経済は観光と個人消費を中心に拡大を続け、製品輸出は徐々に回復すると予想される」と、景気回復に伴うインフレ上振れリスクを指摘した上で、前回3月会合時と同様、「全体指数のインフレ率は伸びが鈍化しているが、コアインフレ率は依然、高水準にあり、コスト上昇の価格転嫁や(景気回復に伴う)需要拡大によるインフレ上振れリスクがある」としている。また、中銀は、「タイ経済とインフレの見通しを踏まえると、段階的な金融政策の正常化(小幅利上げ)の継続が適切であると判断した」としている。

 景気の見通しについて、中銀は前回会合時に発表した最新の経済予測で、23年のGDP伸び率を3.6%増、24年を3.8%増と予想したが、今回の会合ではこれらの予想をいずれも据え置いた。中銀はタイ経済が今後、22年の2.6%増を上回り、安定した成長軌道になると予想している。景気見通しのリスクについては、中銀は、「今後の政府の経済政策により、国内成長の見通しには上振れリスクがある」とし、景気回復が持続すると見ている。

 インフレ見通しについては、中銀は3月経済予測で、23年の全体指数を2.9%上昇、24年を2.4%上昇と予想したが、今回の会合ではインフレ低下が進んでいることを受け、それぞれ2.5%上昇と2.4%上昇に引き下げた。ただ、中銀は、「インフレ見通しには上振れリスクがある。コスト上昇により価格転嫁が進む可能性があり、景気回復が勢いを増すにつれ、需要圧力が強まる可能性がある。このため、企業の価格設定行動(便乗値上げ)を監視する必要がある」とし、警戒感を緩めていない。

 バーツ相場については、中銀は前回会合時と同様、「FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策の見通しや、中国の通貨人民元安、国内政治の不確実性(新政権への移行)により、バーツはドルに対し下落した。金融市場の動向と為替相場の変動を注視している」と懸念を示した。

 また、最近の世界的な銀行危機について、中銀は、「一部の中小企業や家計は生計費コストの上昇と債務負担の増大にさらされており、依然として財務状況は脆弱」としたが、「タイの金融システムは依然、強靭性がある。金融機関は高水準の自己資本と貸倒引当金を維持している。景気回復に伴い、家計や企業の債務返済能力も改善した」としている。

 今後の金融政策について、中銀は、「着実な経済拡大を予想しているが、インフレの上振れリスクを監視する必要がある」とした上で、前回会合時と同様、「経済成長とインフレの見通しが現在の評価から変化した場合、金融政策の正常化(利上げ)のタイミングと規模を調整する用意がある」とし、会合ごとに経済データを検証して政策決定を行う考えを示している。市場ではインフレ低下が進んでいるため、22年8月から始まった利上げサイクルは今回の会合で終了、次回8月会合で利上げが一時停止される可能性があると見ている。

 次回会合は8月2日に開催される予定。

<関連銘柄>

 タイSET<1559.T>、アジア債券<1349.T>、上場EM債<1566.T>、

 上場MSエマ<1681.T>、アセアン50<2043.T>

提供:ウエルスアドバイザー社

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