<発掘!日経平均3万円時代の有力小型株>来期は業績本格拡大へ―多摩川HD

株式

2023/6/8 16:02

 日本株への海外資金の流入が加速している。ただ、その恩恵はまだ主力株に偏り、個人投資家が買い主体の小型株の中には埋もれている有力銘柄が少なくない。そうしたものに焦点を当て、いずれやってくる再評価の局面を先取りしたい。

<大型受注で加速器領域開く>

 多摩川ホールディングス<6838.T>は半導体や防衛、再生可能エネルギーなど、いずれも市場の高成長が予想される事業領域にポテンシャルを持つ。規模の大きな受注や引き合いも相次ぎ、来3月期からの本格的な収益拡大が視野に入る。

 同社は傘下の事業会社に電子・通信用機器の多摩川電子、再エネビジネスの多摩川エナジーを擁する。前期は部品不足などを背景に大幅減収・赤字を余儀なくされた(今期計画は連結売上高60.4億円、前期比83%増、営業利益6600万円)が、影響は緩和しつつある。また、前期に伸び悩んだ再エネ事業での小型風力発電の売却も、今後はペースを速める方向だ。

 多摩川電子をめぐっては直近、加速器向け設備の完工や半導体試験装置の受注の発表が株価の刺激材料になった。前者は東北大学が来年運用を始める、全長110メートルの巨大顕微鏡である次世代放射光施設「ナノテラス」へのシステム納入。電子ビームを高速近くに加速させるために、電圧や周波数を制御する回路などを設計した。

 ナノテラスは分子レベルで物質を観察することができる。創薬研究などで企業の利用ニーズは大きく、半導体業界も例外ではない。例えば、回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の最先端品の製造プロセスで導入される、EUV(極端紫外線)露光用のレーザーダイオードの開発に使われることが想定される。

 加速器用のシステムは、従来では大手電機メーカー系の企業が手掛けるケースが多かった。多摩川電子の小林正憲社長は、「ナノテラスで実績を残したことで、今後同様のプロジェクトが立ち上がる時にも食い込んでいける」と自信をのぞかせる。

<防衛、再エネも好感触>

 多摩川電子の担ったナノテラス向け設備は5億円程度とみられ、落札当時(2020年)は同社最大の受注額だった。しかし、現在では別事業でそれを上回る規模の案件を獲得しつつあるもようだ。

 その詳細は明らかではないものの、同社は防衛セクターとも密接である点は見逃せない。日本政府は従来「GDP(国内総生産)の1%」をメドにしていた防衛費の不文律を封印し、今年度からの5年間で最大45兆円程度を充てる方針だ。27年度には、22年度当初予算の2倍に相当する10兆円超を目指す。

 多摩川電子は無線技術を基盤としており、民間向けのほかに官公需を吸い上げる。レーダーに使う機器も得意とし、気象用などで実績がある。北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返す状況を背景に、防衛分野での貢献も十分に見込まれるだろう。

 一方、再エネ事業は脱炭素へ向けた企業のESG(環境・社会・ガバナンス)投資が追い風になる。同社は北海道で発電容量20キロワット未満の小型風力を建造し、売電や設備の売却で収益を得るビジネスモデルを構築。前期は部品の調達難や資材費高騰で売却が滞ったが、今期はそうした逆風がやむ。地銀のグリーンローン(環境配慮型融資)や、環境ファンドの投資の受け皿になることが期待される。

 ここ1年程度の多摩川HDの値動きを見ると、1000円手前をピークに下は600円台前半のもみ合い相場を形成している。現状の株価は散発するニュースリリースに短期的な反応を示すにとどまり、業績面の期待値はお世辞にも高いとは言えない。しかし、多摩川電子、多摩川エナジーの両子会社の業況を踏まえると、来期以降が楽しみな具合になってきたのは間違いない。

提供:ウエルスアドバイザー社

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