<新興国eye>カンボジア中央銀行―銀行監督報告書

新興国

2023/6/9 15:42

 5月18日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行は、銀行監督報告書2022(英語版)を公表しました。

 2022年末の商業銀行59行・特殊銀行9行の総資産は、2021年末から10.4%増加して272.7兆リエル(約662億ドル:約9兆2000億円)に達しました。2022年末の貸付残高は、前年末比19.5%増の185.7兆リエル(約453億ドル:約6兆3000億円)となりました。預金残高も、前年末比7.3%増の155.0兆リエル(約377億ドル:約5兆2400億円)となっています。貸付先をセクター別シェアで見ると、小売15.9%、住宅(個人向け)14.2%、卸売9.6%、建設9.4%、不動産9.3%、個人向け8.0%、農林水産業8.0%等となっています。不動産セクター(住宅、建設、不動産)向けは、2021年からは若干増加しています。

 平均貸付金利は、欧米の金融引き締めの影響もあって、上昇してきています。リエル建ては、2020年10.3%、2021年11.4%、2022年12.2%となっています。ドル建ても、2020年9.1%、2021年9.7%、2022年10.0%となっています。貸付金利の上昇に伴い、定期預金金利も上昇傾向にあります。

 商業銀行・特殊銀行の平均不良債権比率は、2019年末2.0%、2020年末2.1%、2021年末2.0%と横ばい状態でしたが、2022年は3.1%に上昇しました。新型コロナの影響で返済が困難になった顧客については、返済を猶予する等の貸付条件の変更に応じてきましたが、2022年6月に貸付条件緩和が終了したため、不良債権が増加したものと見られます。

 NBCでは、金融の安定性、持続可能で包括的な成長を確保するため、国際的監督基準等に配慮しつつ、効果的な銀行監督を強化してきたとしています。2020年には、中央銀行デジタル通貨のバコンの使用も世界に先駆けて開始したことに加え、2022年には電子支払のための統一QRコードであるKHQRの導入にも成功しています。また、国家金融包摂戦略の推進、金融リテラシーの向上、消費者保護拡充等にも引き続き取り組んでいくとしています。

 2020年以降、新型コロナの影響はカンボジア経済に大きな打撃を与えました。しかしながら、金融システムが揺らぐことはありませんでした。銀行の健全性を維持するための様々な規制や銀行監督が奏功したものと見られます。しかし、上述の通り不良債権が増加しており、今後の状況については、引き続き留意する必要があるものと見られます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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