海外株式見通し=米国、香港

【米国株】「祭りのあと」の余韻と米国株の季節性

 主要銘柄の四半期決算発表の中でも特に市場の注目を集めていた半導体のエヌビディアは、23日の決算発表後の時間外取引で、株価が終値比約9%上昇。21日から既に強い買い基調で推移していた中でさらに買い上げられた。ところが24日は取引開始直後に大きく上昇したものの終値は同横ばいで推移。「祭りのあと」を印象付けた。

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のジャクソンホール会議における講演も市場参加者の見通しを大きく変えるものではなかった。長期的な平均期待インフレ率を示す「10年ブレークイーブンインフレ率」は2%台前半で落ち着きつつある。これに対し、米10年国債利回りは4%台と高水準を維持しており、実物経済および株式市場に大きな影響を与え得る10年物の実質利回り(物価連動国債利回りから算出)は2%近辺と昨年秋の「超ドル高」時を上回っている。

 足元の景気や雇用が堅調のほか、米国債増発ペース加速、通貨防衛のための中国政府系ファンドによる米国債売却、あるいは10月から新財政年度が始まる2024年度予算をめぐる米議会の情勢などによって米国債が格下げ対象となるリスクなど、米長期債利回りを押し上げやすい要因が多様化している。

 米国株相場の「季節性」に関するアノマリー(説明のつかない法則)で留意点を2点指摘したい。

 第1に、米S&P500株価指数の月間平均騰落率を昨年末まで過去20年および過去30年間で算出すると、いずれも9月が12カ月の中で最も低い。10月と11月は新財政年度開始の影響も考えられる中、月間平均騰落率は相対的に上位だ。

 第2に、大統領選挙サイクルの3年目秋という時期だ。4年前は年後半がおおむね堅調だった一方、8年前は「チャイナ・ショック」で8~9月に大きく下落。12年前は5~9月が下落基調であり、16年前は8月にサブプライム(信用度の低い顧客向け)ローンに係る「パリバ・ショック」が発生した。8~9月はこの点からも要注意だろう。9月は来年の大統領選挙イヤーに向けて買い好機となる可能性もあるかもしれない。

【香港株】株価対策と米中対話再開機運、好業績中国EV企業は見直し余地

 中国当局が株式売却時に必要な証券取引印紙税の税率を28日から半減。印紙税率引き下げは08年以来だ。さらに創業者など大株主による自社株の売却も制限するとした。投資家心理を冷やす「米中分断リスク」に対しても、米レモンド商務長官が訪中して李強首相と会談。米中の対話再開の機運がみられた。背景には以下の事情も垣間見える。

 グローバル投資資金の中国からの離脱が加速することで、中国当局が通貨防衛のため米国債を売却して人民元を買い支える必要が出てくる。そうなると、インフレ率の伸び減速で金融引き締め最終局面に入ったとされる米国の金融市場に対し、名目長期金利(および期待インフレ率を差し引いた実質長期金利)の上昇をもたらし、景気と株価への悪影響が懸念されることになる。

 このような動きが進めば、売られ過ぎの中国株への見直し機運も出て来よう。中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が28日、23年1~6月決算を発表。売上高が前年同期比73%増の2601億元、純利益が同3倍の109億元と好調な内容。EVが同91%増の61万台、プラグインハイブリッド(PHV)が同2倍の63万台と新エネルギー車(NEV)が伸びた。売上構成比で73%を占める自動車関連事業は粗利益率が同4.4ポイント上昇の20.7%と改善。EVのリチウムイオン電池の電極材料としてリチウムの資源確保が課題とされる中、中国は世界的に有力なリチウム生産企業があり、BYDにとっては有利に働こう。

 また、リチウムイオン電池の正極材がニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムの「三元系」から、コバルト・ニッケル不使用の「リン酸鉄系」リチウムへと移行が進む中で、低価格EVの需要が強い中国で覇権を握る企業がグローバルでも優位に立つ可能性があろう。同社の競合とみられる米テスラとの株価比較で割安タイミングでの投資も検討されよう。

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(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)

(写真:123RF)

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