海外株式見通し=米国、香港

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2023/10/12 10:50

【米国株】金利上昇が一服、今後の展開は?

 年末に向けて米国株市場はブル(強気)とベア(弱気)のどちらを向くだろうか? 

 株式市場を弱気へ誘導していたのは主に債券市場だった。FRB(米連邦準備制度理事会)による高金利長期化観測を受け、米30年債利回りが一時は5%を上回った。ドイツの10年国債利回りも直近で3%を突破した。

 しかし、そのあたりから長期金利上昇に一服感が出始め、債券買い戻し(長期金利低下)の動きが強まった。9月の米雇用統計も非農業雇用者数は市場予想を大幅に上回った一方で、平均賃金の伸び率や失業率は落ち着きを示した。FRB高官が声をそろえて「債券利回り上昇を通じた金融引き締め」に言及し、追加利上げは不要である可能性を示唆している。

 中東でイスラム組織ハマスによる大規模攻撃に対し、イスラエル軍が報復としてガザ地区を激しく空爆する「戦争状態」がぼっ発した。このような地政学リスクに対し安全資産の国債買いが見られ、長期金利低下加速を追い風に米国株市場は堅調に推移している。「遠くの戦争は買い」なのか。イスラエル支援へ向けたドル供給増の必要性も、金融引締めを緩めることにつながるとみる向きがある。

 他方、懸念材料としては13日から始まる7~9月の決算発表が挙げられる。特に金融機関は金利上昇が財務に与える影響が注目される。今年3月、預金増に対し資金を貸出に回せず債券運用を増やしたことがあだとなり、相次いで金融機関が破たんしたことは記憶に新しい。

 政策金利連動のMMF(マネー・マネジメント・ファンド)への預金流出も気掛かりだ。欧州ではドイツで「クエレ・ブル」再開発事業に携わるゲルヒ・グループが破産手続きを申請したほか、英国で銀行のメトロバンクが財務強化のため増資を行い、希薄化懸念から株価が大幅に下落した。

 こうしたことから、米国の商業用不動産の評価額引き下げや、オフィス系リート(不動産投資信託)に関連した銀行株の動きは要注意だろう。

【香港株】「中特估」の国有企業、7月転換点の中国経済

 中国国有企業株に「中特估(チュウトクコ)革命」の兆しが見え始めている。その担い手は、証券業行政を管轄する中国証券監督管理委員会(CSRC)の易会満主席だ。

 易氏は昨年11月、北京で開かれた「金融街フォーラム年次総会」で「中国の特色を備えたバリュエーション体系の構築を検討し、市場の資源配分機能がより良く発揮されるようにする」と述べた。これを受けて「中国特色価値体系」を略した「中特估」が香港・中国株市場で注目されるようになった。

 最近では「中特估」の観点から、公共利益を重視した「中国ならでは」の事情を反映させた企業価値の評価方法の下で、キャッシュフローが潤沢なのに割安に評価されている国有企業への資金流入を期待する論調も見られる。不安の小さい国有企業株の配当利回りが際立って高い現状のゆがみが解消するきっかけになるかもしれない。解消前が投資の好機だろう。

 8月以降の中国経済は、7月までとは別物かもしれない。大手不動産開発企業の経営不安や不動産関連の経済指標低迷を背景に「中国悲観論」は根強いが、小売売上高の月次推移を見ると、ゼロコロナ政策の反動増で盛り上がった今年3~5月の後、全体でいったん7月に前年同月比2.5%増まで鈍化し、8月には同4.6%増へと反転が加速した。

 ケータリングやオンライン小売、自動車販売も勢いが持続。特に7月は、19日に中国共産党と国務院が共同で民間企業への支援を強化する指針を発表し、家庭用品の消費喚起に焦点が当たった。同21日に国家発展改革員会が新エネルギー車(NEV)を中心に自動車購入意欲を喚起し、EV(電気自動車)充電コスト引き下げや税優遇措置の延長も発表した。

 同24日には党中央政治局会議において、自動車や電子製品の消費浮揚に加え、投機ではなく生活に根差した不動産取引を目指す施策が発表された。さらに、景気支援のため地方政府特別債発行枠(今年3兆8000億元)の使用を9月までに前倒しで完了することを目指す。"

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(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)

(写真:123RF)

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