海外株式見通し=米国、香港
【米国株】高値系シグナルと新時代の予感
米国株市場に高値警戒シグナルが灯(とも)り始めた。
1つは、半導体大手エヌビディア(NVDA)の最新の半導体「HGX H100」の認定パートナーを取得しているスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の株価の動きだ。同社株は1月半ばの300ドル近辺から上げ足を速め、15日に1000ドルを突破。しかしその翌日、取引開始直後に付けた1077ドルをピークに800ドル近辺まで約25%下落した。もっとも、SMCIの相対力指数(=RSI、14日<※>)は90%を超える「買われ過ぎ状態」だったことを踏まえれば急落は無理もない。
第2に、アップル(AAPL)の株価が200日移動平均を下回ってきた。16日終値で同線を割り込んで以降、26日現在も同線の下で推移している。著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイは、昨年10~12月にアップル株を一部売却した。
一方で、次の時代に向けて楽しみな企業も出てきた。まず挙げたいのは、広告向けソフトウエア・プラットフォーム運営のザ・トレードデスク(TTD)である。同社は決算発表を受けて16日に前日比で17.5%上昇した。同社のAI(人工知能)を活用した広告プラットフォームは、取引手数料の透明性を高めて手数料を削減することから、大手広告主の間で支持を広げている。(画像クリックで拡大版にジャンプ)
次に、エンタメ業界では、昨年9月にスフィア・エンターテインメント(SPHR)がラスベガスに球体型複合アリーナ施設「スフィア」をオープンした。超高帯域幅で膨大なデジタル情報を配信することで、画期的な娯楽体験を提供。世界の度肝を抜いた。過剰投資の懸念も指摘される半面、新時代の予感をもたらすものでもある。
※相対力指数…14日間の上げ幅(前日比)の合計を同じ期間の上げ幅合計と下げ幅合計を足した数字で割って算出する
【香港株】市場底入れと中央企業の企業統治改革
旧正月「春節」の連休を挟み、上海総合指数は5日の安値2635ポイントから27日の高値3015ポイントまで10営業日で14.4%上昇した。中国株の反発は本物の「底入れ」なのだろうか?
第1に、政治イベントへの期待がある。中国の国会に相当する全国人民代表者大会(全人代)が3月5日に北京で開幕する。第2に、中国当局による不動産市場支援策への期待がある。各地方政府が、融資を推奨する不動産プロジェクト一覧「ホワイトリスト」を銀行に提示した。銀行はこのリストに基づき融資の可否を審査する仕組み。第3に、中国株式市場の買い支えを担う、政府肝入りの資金や金融機関を意味する「国家隊」による中国本土株買いへの期待がある。
中国株低迷に関して、日本のバブル崩壊と異なる点とは、(1)主要企業の予想PERが12倍を下回り割安水準であること、(2)個人投資家による個別株式の値動きに着目した売買が主流であること(株式市場と経済の連動性が高くない)、(3)上場企業の政策保有株式(持ち合い)の解消売り圧力がない、といった点が指摘される。また、中国の個人家計資産の約6割は不動産が占め、株式は約5%にすぎない。個人家計の不動産から株式への資産移行を進める余地がある。
相場の底入れが意識される中で、中核企業など傘下企業を上場させる中央企業(国有企業で、国有資産監督管理員会が株式を保有)の企業統治(コーポレートガバナンス)改革が注目される。中央企業の経営者の評価基準に、従来の財務評価項目に加え、株価など市場価値項目を加えることが検討されている。
中央企業の経営者が上場子会社の株価を重視し、自社株買いや配当などで投資家に分配することを促す趣旨とされる。ペトロチャイナ(857香港)、チャイナ・モバイル(941香港)、シノペック(386香港)、国家電網信息通信(600131深セン)といった主要な中央企業傘下企業から率先垂範での改革が期待される。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
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