<新興国eye>カンボジア中央銀行年次報告書2022

新興国

2023/6/23 8:57

 6月9日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、年次報告書2022を発表しました。

 内容は、世界経済見通し、マクロ経済動向、金融政策、カンボジアの銀行システム、金融包摂と消費者保護、中央銀行活動、カンボジア金融情報機関(CAFIU)、国際協力、中央銀行の内部管理、2023年の見通しと目標等です。経済状況や金融システムを概観するにはとても有益な報告書です。

 2022年のマクロ経済については、国内経済と国際的な需要回復に支えられて、GDP成長率は5.1%にまで回復しました。第2次産業は、縫製業の輸出が対前年比64.3%増となる等、新型コロナの影響から立ち直りを見せました。新型コロナの厳しい影響を受けた観光業は、観光客数が220万人まで回復したものの、ピーク時の3分の1に留まっています。また、建設業は0.8%、不動産業は0.5%の成長に留まりました。農業も0.7%とわずかな成長となっています。

 物価上昇率は、ロシアのウクライナ侵攻の影響により原油価格等が上昇したため、5.3%にまで高まりました。リエルの対ドル為替レートは4102リル/ドルと安定的でした。対外収支は、外貨準備は減少したものの2022年末で約178億ドル(輸入の7か月分)と十分なレベルにあります。カンボジアは、高度にドル化された経済であり、外貨建て預金の対M2比率は84.1%となっています。また、2022年には初の国債が発行されました。

 銀行セクターは、経済に重要な役割を果たしており、金融包摂の推進、金融リテラシーの改善、銀行健全性維持のための規制等に取り組んでいるとしています。また、金融インフラと電子支払は大きく進展したと評価しました。NBCでも、ブロックチェーン技術を活用した電子通貨「バコン」に続き、QRコード支払いのための統一QRコード「KHQR」の導入にも成功しました。銀行セクターに不可欠な信用情報システムも強化されました。なお、現金取引の比率もまだ高いため、NBCとしては、市中で流通している紙幣の質の向上とともに、リエルの使用促進にも努力したとしています。

 2023年については、引き続き経済は好調で、成長率は6%前後、物価上昇率、為替レート、外貨準備等は安定的に推移すると見込んでいます。リスクとしては、カンボジアからの輸出先である主要国の需要減退を挙げています。

 カンボジアの金融・通貨制度は、整備の途上にありますが、地道な努力が継続されており、安定的な発展が期待されます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:ウエルスアドバイザー社

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