<新興国eye>カンボジア中央銀行報告書―金融機関は健全性を維持

新興国

2023/7/21 8:47

 7月6日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、金融安定性調査報告書2022年版(Financial Stability Review: FSR)を公表しました。カンボジア国立銀行では、国際通貨基金(IMF)の支援を受けて、2011年から金融安定性委員会に年2回、金融安定性調査結果を報告してきました。報告書は、マクロ経済の現状と安定性、金融システムの現状と安定性、ノンバンク金融、支払・決済システムの最近の発展の4章から成っています。

 2022年の世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻、欧米のインフレ、それに伴う金融引き締め等により減速しました。その中でカンボジア経済は、新型コロナの影響から着実な回復を見せ、GDP成長率は5.2%となりました。物価上昇率は、世界的な原油価格の上昇等の影響で、年平均は5.4%まで上昇しましたが、その後落ち着いてきています。

 米国の金利上昇に伴うドル高で、多くの国で通貨が減価しましたが、カンボジアの通貨リエルの対ドルレートは安定的で、1%程度の減価で平均レートは4102リエル/ドルでした。他通貨が減価したため、リエルの実質実効レートは3.4%増価し、輸出競争力に影響を与えたものと見られます。他方、外貨準備は若干減少したものの、輸入の7か月分という安定的な水準を維持しました。対外債務も健全な状態にあり、公的債務の対GDP比は33.9%に留まっています。

 金融セクターは、引き続き健全性を維持しつつ拡大を続けています。貸付は16.3%増、預金は9.5%増となっています。不良債権比率は、2021年の1.8%から2022年は2.9%に上昇しました。これは、新型コロナの影響で返済が困難になっていた借入人に対する緩和措置が2022年6月末に終了したためと見られます。健全性の指標を見ると、流動性カバレッジ比率は143.8%(基準値100%)、自己資本比率22%(基準値15%)と十分な健全性を示しています。

 ノンバンク金融については、株式市場は株価・出来高共にほぼ横ばいでした。しかし、債券市場は拡大し、新たな資金調達手段として期待が高まっています。

 銀行間支払・決済システムの改善も進み、電子支払も大きく拡大しました。eウォレット数は1950万件、電子支払総額はGDPの9倍に達しました。中央銀行デジタル通貨「バコン」や共通QRコードの「KHQR」も大きな効果を発揮したものと見られます。

 2023年については、カンボジア経済は新型コロナからの回復が続くと見られ、GDP成長率は5.6%となると予測しています。物価上昇率は2%程度に落ち着くと見ています。リスクとしては、主要取引先である欧米の経済停滞、世界的インフレの昂進とカンボジアへの波及、中国の不動産不況のカンボジアへの波及、気候変動による農業への影響や災害被害の拡大等をあげています。

 金融セクターについても、経済の回復・成長とともに着実に拡大を続けると見ています。リスクとしては、世界的な金融引締め、世界経済の停滞、不動産・建設セクターの不良債権化等をあげています。また、中央銀行の監督を受けていいない不動産業者等による貸付のリスクを特記し、監督省庁と協力して、監視を強化したいとしています。NBCとしては、引き続き経済の状況を注視しつつ、金融セクターの健全性維持に努めるとしています。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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