<新興国eye>カンボジアの銀行セクターは順調に拡大

新興国

2023/9/1 8:58

 7月31日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、2023年上半期業績報告書により、今年上半期の銀行セクターの状況を公表しました。

 2023年6月末の商業銀行59行・特殊銀行9行の貸付残高合計は、対前年6月末比11.9%増の約458億ドルとなりました。預金残高合計も、6.4%増の約394億ドルとなっています。貸付先をセクター別シェアで見ると、小売16.0%、住宅(個人向け)14.5%、不動産9.5%、卸売9.3%、建設8.9%、個人向け8.3%、農林水産業8.0%等となっています。

 6月末のマイクロファイナンス機関の預金残高合計は、14.8%増の97億ドル、預金残高合計は49億ドルとなっています。マイクロファイナンス機関の貸付先をセクター別シェアで見ると、個人向け34.0%、商業23.2%、農業17.7%、サービス13.4%等となっています。

 まだ、デジタル取引も増加しており、6月末のeウォレット数は2020万口座、2023年上半期のデジタル取引数は3030万件、取引金額は897億ドルに達したとしています。

 NBCのチア・チャント前総裁は、世界的な金融引締め、米国での銀行の破たん等で国際的金融市場が動揺する中で、カンボジアの金融セクターは強靭性と安定性を示していると強調しました。また、各金融機関は、NBCが定める資本や流動性に関する銀行監督規制を遵守しており、金融安定性に大きなリスクとはなっていないとしています。

 商業銀行・特殊銀行の平均不良債権比率は、6月末の数字は明らかとなっていませんが、2022年末は3.1%に上昇しました。新型コロナの影響で返済が困難になった顧客については、返済を猶予する等の貸付条件の変更に応じてきたこともあり、不良債権比率は2019年末2.0%、2020年末2.1%、2021年末2.0%と横ばい状態でしたが、2022年6月にこの貸付条件緩和が終了したため、不良債権が増加したものと見られます。

 2020年以降、新型コロナの影響はカンボジア経済に大きな打撃を与えました。しかしながら、金融システムが揺らぐことはありませんでした。銀行の健全性を維持するための様々な規制や銀行監督が奏功したものと見られます。しかし、上述の通り不良債権が増加しており、今後の状況については、引き続き留意する必要があるものと見られます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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