永濱利廣のエコノミックウォッチャー(44)=エルニーニョ現象、暖冬で個人消費に思わぬダメージも
世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が続いている。気象庁によると、今冬の半ばにかけても90%と予測しており、日本では暖冬になる可能性が指摘される。個人消費に思わぬダメージを与えかねないだけに、注意が必要だ。
景気後退確率1.6倍に
エルニーニョは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が1~1年半続く現象である。これが発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。
近年では、2018年秋~19年夏にかけても発生し、冬はほぼ全面的に暖冬となり、南西諸島は記録的暖冬、西日本や東日本でも気温が例年より高くなり、西日本の日本海側は記録的少雪となった。またそれ以前は、15年夏~16年春が該当し、北海道を除く北日本で平年より10~14日遅く初雪・初冠雪が観測され、沖縄では12月に高気温が続いた。
エルニーニョ現象とわが国の景気局面には関係がある。実際、1990年代以降のエルニーニョ発生時の景気後退確率は通常の1.6倍に跳ね上がっている。
15年の場合、全国平均の気温が前年比1.2度高かった10~12月期は、消費支出(家計調査)が前年同期比で3.1%減少した。特に冬物衣料の売上が不調となったため、被服履物が同11.5%の落ち込みを記録した。
また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響でスキーなどの冬レジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤなどの季節商材が伸び悩んだ。国民経済計算ベースでも、15年10~12月期の実質国内家計最終消費支出は前年同期比0.1%増と伸びが鈍かった。
恩恵受ける分野も…
このためエルニーニョ現象で今回も暖冬になれば、各業界に影響が及ぶ可能性がある。前述の冬物衣料に加え、百貨店関連や電力・ガスなどのエネルギーのほか、製薬会社やドラッグストアも暖冬に業績が大きく左右されている。自動車やスーパー、冬物商品を多く取り扱うホームセンターなども苦戦している。
一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。
減速感漂う日本経済に暖冬が思わぬダメージ
なお、これまでの歴史からも分かるように、エルニーニョが発生したからといって、必ず暖冬になるわけではない。しかし、覚悟をしておく必要はあるだろう。15年は前年が低気温だった反動、チャイナ・ショックも相まって、株価の下落や消費マインドの低迷を招いた。同年10~12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率2.7%減と経済はマイナス成長に陥った。
また、エルニーニョは世界的な現象でもある。天候不順は穀物価格の上昇につながり、貿易を通じても日本経済に悪影響を及ぼすかもしれない。特に足元の個人消費に関しては、実質賃金低下などのマイナスの材料が目立っているが、加えて暖冬リスクも意識される。
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【プロフィル】永濱利廣…第一生命経済研究所・首席エコノミスト/鋭い経済分析を分かりやすく解説することで知られる。主な著書に「経済指標はこう読む」(平凡社新書)、「日本経済の本当の見方・考え方」(PHP研究所)、「中学生でもわかる経済学」(KKベストセラーズ)、「図解90分でわかる!日本で一番やさしい『財政危機』超入門」(東洋経済新報社)など。
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