<新興国eye>カンボジア新政権の政策パッケージ、五角形戦略を発表

新興国

2023/9/15 8:52

 8月22日、カンボジア国民議会(下院)の承認を受けて新首相に就任したフン・マネット氏は、国民議会で初の施政方針演説を行いました。新首相は、「政策基盤(Political Platform)」文書を国民議会に提出し、政策基盤の実施に関する5点の優先事項を説明しました。

 優先事項は、(1)平和・安定・治安・安全の確保と独立・主権の保護(2)社会経済開発の拡充(政府の改革、安定的マクロ経済環境の確保、人的資源への投資拡充、インフォーマル経済への配慮、金融安定性の強化等)(3)国民の生活改善(質の高い教育、労働訓練と雇用の確保、農民支援、最低賃金の引上げと労働環境の改善等)(4)国民の生活安定と社会保障(すべての国民を対象とした社会保障システム、貧困・ぜい弱・危機の影響を受けた人々への社会支援等)(5)社会経済開発におけるサステナビリティー重視(気候変動への耐性強化、人口ボーナスの活用、ジェンダー平等の推進、天然資源の管理、グリーン投資・経済の振興、公共投資の低炭素化、気候変動への対応準備等)――です。

 また、8月24日、初の閣僚評議会全体会議(閣議)を開催し、演説しました。演説では、平和を維持し、経済成長を実現させると強調しました。中国をはじめ各国から投資を呼び込みたい考えを示し、2030年までに高中所得国に、50年までに高所得国となる目標を掲げました。

 具体的政策としては、これまでの四辺形戦略を拡充した「五角形戦略(第1期):Pentagonal Strategy-Phase I」を打ち出しました。五角形戦略には、5つのモットー、5つの目標、5つの優先事項が掲げられています。モットーは、成長、雇用、公平、効率、サステナビリティです。目標は、(1)年間成長率7%程度の危機に強い経済成長の確保(2)若者に重点を置いた雇用の質量両面での拡充(3)貧困率を10%以下とすることを目標とした貧困削減(4)公的機関の質を改善するためのガバナンスの強化とビジネス・投資・貿易のためのビジネス環境改善(5)サステナブルな社会・経済開発と気候変動への耐性強化――です。優先事項は、国民、道路、水、電気、技術です。

 新政権については、世襲では何も変わらないという批判がある一方、若返りによる変化への期待も出ています。当面は、父親のフン・セン前首相の支えが必要であり、新政権でもこれまでの路線に沿った政策運営が行われると見られます。新首相が、独自色を出していくのは、ある程度時間が経ってからになるとの見方が一般的です。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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