<新興国eye>カンボジア中央銀行、次世代決済システム「バコン」白書を発表
2020/7/3 12:29
カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は6月17日、「プロジェクト・バコン: 次世代決済システム」と題する白書を発表しました。バコンは、日系企業のソラミツ社とNBCが協力して開発した安全・簡単・迅速かつ無料の決済・送金を実現するトークン型の中央銀行デジタル決済システムです。ブロックチェーン(BC)・分散台帳技術を活用した中央銀行デジタル決済の実用化としては、バコンが世界初であるとしています。
白書は、背景、プロジェクト・バコンの基本構想、プロジェクト・バコンの内容、試行とその結果、起こりうる影響、結論の6章となっています。バコンについて包括的に説明され、技術的背景も分かりやすく書かれています。
バコンの導入により、金融包摂の促進、現地通貨リエルの使用促進、NBCによる金融政策の効果増大等の効果があるものと期待されます。カンボジアの農村部では、銀行等の支店も少なく、金融へのアクセスが課題となっていますが、スマートフォン(スマホ)によって利用できるバコンは、農村部に取り残された人々の金融アクセスに大きな効果があると見られます。
また、カンボジアは高度にドル化した経済であり、多くの支払いがドル現金で実施されていますが、バコンにより現地通貨リエルの使用促進にも効果があるものと期待されます。ドル化されているために、NBCは通常の金融政策(金利誘導、通貨量操作等)が十分に行えませんが、バコンを通じて、こうした金融政策を行う自由度やその効果も増大すると見られます。
白書では、カンボジアは若年層が多く、新しい技術の導入にも抵抗が少ないことが、バコンの普及を後押しするとしています。カンボジアでは、モバイルバンキングの利用も進んでおり、eウォレット口座数は19年に64%増加し、過去最高の522万口座となったとのことです。しがらみの少ないカンボジアでは、先進国が一歩ずつしか進められない新技術を一気に導入し、先進国を追い抜いていく「技術ジャンプ(蛙飛び)」の例が見られます。バコン等のフィンテックはその好例です。
日銀も中央銀行デジタル通貨の研究を始めたとのことですが、実際の発行には相当の年月が必要なものと見られます。カンボジアは、その間に、最新の技術を本格的に活用していくことになるものと期待されます。
【筆者:鈴木博】
1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。
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提供:モーニングスター社
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