<新興国eye>カンボジアの海上油田暗礁に―開発会社が破たん

新興国

2021/6/18 12:33

 6月4日、カンボジアの海上油田開発を行っているシンガポール系のクリスエナジーは、登記上の本社があるケイマン諸島の裁判所に会社清算の申し立てを行ったと発表しました。

 清算申し立てを選択した理由としては、(1)債務超過(2)海上油田の生産量が予想を大きく下回り事業再編計画の実施が不可能(3)再編に向けた選択肢がないこと(4)資金調達のめどがたたないこと――の4点を挙げています。

 3月31日に、クリスエナジーは、シアヌークビル沖のミニフェーズ1Aで掘削した5本の油井からの原油生産量が予測値を大きく下回っていると発表していました。当初の予定では、日量7500バレルを生産できる見込みでしたが、5本の油井の掘削が完了した2月23日から3月30日までの平均生産量は日量2833バレル、最高でも3月27日の3534バレルに留まったとのことでした。クリスエナジー社は、債務再編を行い、苦しい資金繰りを繰り返しながら運営を続けていましたが、最後の望みであったカンボジアの油田開発が困難に直面し、出資者・融資機関から見放されたものと見られます。

 海上油田ブロックAについては、当初はシェブロン<CVX>や日本の三井物産<8031.T>傘下の三井石油開発等も権益を有していましたが、税金問題などでカンボジア政府と折り合いがつかなかったことなどから、現在の権益は、クリスエナジー95%、カンボジア政府5%となっています。フェーズ1Aでクリスエナジーは、海上プラットフォーム1基(24井)と浮体式生産バージ、更に1.5キロのパイプラインで接続される浮体式貯蔵積出設備(FSO)を投入して、日量3万バレルの原油を生産する計画でした。更に縮小したミニフェーズ1Aでは、日量7500バレルを目指すとして、20年12月に初の原油生産を開始したところでした。

 海上油田の生産開始は、カンボジアにとっても明るいニュースでしたが、残念な状況となりました。カンボジア政府は、クリスエナジーと協議をしつつ代替する会社を探すことになると見られますが、当該油田の生産量が少ないことが判明している状況では、相当な困難が予想されます。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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