<新興国eye>IMF カンボジアとのIV条協議結果―経済回復に新たな課題

新興国

2022/9/30 9:55

 国際通貨基金(IMF)は、IMF協定第IV条に基づき、毎年加盟国政府と政策協議を行うこととなっています。9月7日から20日まで実施されたIMF調査団とカンボジア政府との協議結果について、9月20日にIMFから発表がありました(なお、詳細なレポートは、通常2ヶ月ほどで発表されます)。

 カンボジア経済は、2021年後半からの輸出の回復に支えられて回復途上にありますが、世界的インフレと世界経済の成長鈍化という新たな課題に直面しているとしています。中国のゼロコロナ政策、欧米の金融引き締めによる消費者需要の鈍化、原油価格上昇等の影響によるインフレの進行等の逆風にさらされていると分析しています。

 2022年下半期は、縫製品等の発注が縮小傾向にあると指摘しています。それでも、2022年のGDP成長率は5%、2023年は5.5%程度と予測しています。国内では、新型コロナ対策の現金支援等によって、財政赤字が拡大しましたが、2021年の赤字(対GDP比)は7%にとどまり、2022年は4%に縮小する見込みです。新型コロナ対策は、対象を絞ったものにしていく必要があると提言しています。国際収支は、経常収支の赤字が拡大したものの、外国直接投資等が堅調で、2021年末の外貨準備は輸入の8カ月分という十分なレベルにあります。

 リスクとしては、民間債務の拡大、先進国の経済状況、インフレをあげています。特に、民間債務の拡大については、2021年末に民間債務残高が対GDP比で170%というかなり高いレベルにあると警鐘を鳴らしています。更に、この残高には無認可金融(不動産業者による金融等)が含まれていないと指摘しています。

 新型コロナで返済が困難となった借入に関する条件緩和が2022年6月で終了したこともあり、不良債権比率が高まる懸念もあるとしています。2022年6月末の条件緩和債権は対GDP比13%に達し、不良債権比率も対GDP比4.5%に高まっています。このため、中央銀行(NBC)に対し、銀行監督の強化等を提言しています。また、外貨建て預金の預金準備率の引き上げも提言しています。

 経済の構造改革については、生産性の向上を目指す必要があると指摘し、自由貿易協定の活用や新投資法に基づく投資環境改善等に期待を示しました。また、反汚職対策やマネーロンダリング対策の重要性も指摘しました。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

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提供:モーニングスター社

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