英野党・労働党はEU離脱延期後の議会解散・総選挙に傾く

経済

2019/10/10 13:36

 英国によるEU(欧州連合)からの「合意なき離脱」に対する金融先物市場の思惑とは異なり、英政府内では離脱合意が射程圏内に入ったとの楽観的な見方が広がっている。

 ジョンソン英首相の新提案は、北アイルランドとアイルランド共和国との間に国境を完全になくすわけではないが、家畜や果物・野菜などの農産物については南北のアイルランドを一つの貿易ゾーンとし、EU(欧州連合)ルールを適用するというもの。他の産品については貿易業者登録制度を導入し、また、製品に電子タグを付け通関手続きを電子化することで国境ではハードな物理的チェックを行わないとしている。

 ジョンソン首相の新提案に対し、ユンケルEC(欧州委員会)委員長は9月19日のスカイニュースで、「これが合意の基礎になる。出発点でもあり到達点でもある」と語っている。しかし、同委員長は、「EU単一市場のルールが完全に保持(尊重)されることが大事で、ジョンソン首相は案をもっと煮詰める必要がある。こうした問題がすべてクリアされればバックストップは必要ないし、感情的に執着しているわけでなく、全く気にしない」と述べている。同委員長は英国から18日に新提案の文書を受け取ったことを明らかにした。

 さらに、英下院でもジョンソン首相の新提案(ディール案)が承認される可能性が浮上。EU訪問から戻った労働党幹部のステファン・キノック議員が英放送局BBCの時事番組「ニュースナイト」で、最大30人の労働党議員がジェレミー・コービン党首に反旗を翻し、ジョンソン首相のEUとの合意を支持する準備を始めたことを明らかにした。保守党のスティーブ・バークレー離脱担当相もキノック議員らと9月18日に会談している。キノック議員は、「EUとの会談では、EUは合意なき離脱を念頭に置いていないという楽観的な印象を抱いているという感じだった」と語っている。

 しかし、EUが英国の新提案で首尾よく合意できるという確実な保証は何もないのが現状だ。英紙デイリー・テレグラフ紙は9月19日付で、「ジョンソン首相は、もし議会がEUとのディールを否決した場合、離脱日は延期しないという条件付きで合意するようEUを説得している。EUが応じれば、政府は議会に対し、離脱日延期なしの合意、言い換えれば、議会が条件付き合意を否決すれば10月末に合意なき離脱となるというオプションを議会に提出する」と伝えている。英政府は合意できてもできなくても、10月末に離脱する方針を貫く考えだ。

 一方、アイルランド共和国のサイモン・コベニー副首相は9月20日、記者団に対し、「英国のジョンソン首相の新提案は検討に値しない。英国とアイルランドとの新しいディールを巡る協議では依然、大きな隔たりがある。合意には近づいていない。バックストップの代案である電子的な通関チェックもわれわれは何度も試したが、うまく機能するとは思えない」とユンケルEC委員長が語ったような楽観的な見通しに冷水を浴びせる見解を示した。

 ただ、英最高裁判所が9月24日、ジョンソン首相が9月10日から10月14日まで5週間にわたる議会閉会を決定したのは違法との判断を示したことを受け、ブレグジット情勢が一段と混迷の度を増した。25日からの議会再招集を受け、労働党や自民党などの野党各党が首相辞任を要求したが、首相は24日、訪問先のニューヨークで会見し、「辞任しない。10月末のEU離脱をやり通す」と明言した。

 一時、再開議会で政府不信任動議が提出される可能性があったものの、メイ前首相のように否決されるか、選挙になっても国民が野党に猛省を求め、保守党が単独過半数を獲得すれば合意なき離脱に向かうリスクが高いことから、最大野党の労働党は離脱日の延期を最優先し、解散総選挙はそのあとの11月か12月が望ましいとの戦術に転換している。

提供:モーニングスター社

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