サイジニア、ZETAとの経営統合で迎えた成長フェーズ――山崎社長に聞く

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2022/7/29 8:45

 デジタルマーケティングのサイジニア(6031)は、EC(=Eコマース、電子商取引)サイト向け検索エンジンのZETA社との経営統合により、CX(カスタマー・エクスペリエンス=顧客体験)分野が成長ドライバーとして存在感を強めている。ZETA創業者でサイジニアの取締役を務める山崎徳之社長=写真=に話を聞いた。

ECサイト内検索エンジン、処理能力で圧倒

 ZETAは高精度のサーチエンジンを武器に、ECサイト内の商品検索・レビューの領域で国内市場の黎明(れいめい)期から活躍してきた企業。サイトを利用するユーザーが得る価値、いわゆる「CX」の改善に寄与するストック型のサービスが主力だ。サイジニアグループで、顧客の集客を目的とするフロー型のネット広告をメーンとするデクワス社と、集客後のコンバージョン(注1)を担うZETAは、役割においても事業モデルの面でも相互補完の関係にある。昨年7月の統合と同時にスタートした山崎社長体制は2年目を迎えた。

注1・潜在顧客から見込み顧客への転換。サイトの訪問者を商品購入や会員登録などに導くこと

 「サイジニアを率いた最初の年である前2022年6月期は、コア事業の収益改善に集中した。その結果、経営統合に絡んだ特別損失(非上場会社であるZETAとの株式交換で発生する『のれん代』が、サイジニアの株価上昇に伴い契約時の想定と比べて膨らんだ)により連結最終損益こそ赤字の見込みだが、本業レベルでは営業黒字(会社計画は3.5億円、前々期は0.4億円の赤字)に浮上した。2年目の今期は会計上のテクニカルな損失もなくなり、全事業の予算編成段階から取り組める。同時にIR(投資家向け広報)にもこれまで以上に重点を置き、積極的にマーケットへ情報を発信していく考えだ」

 サイト内検索ツール「ZETA SEARCH(サーチ)」をはじめ、CX改善のためのサービスがアパレル業界を中心に順調に採用されている。顧客基盤も厚みを増し、着実に収益を積み上げ始めた同社の強さの核は、圧倒的な情報処理能力だと山崎社長は話す。

 「ZETAの優位性は、何といっても検索エンジンの能力にある。検索に使用される単語やフレーズを示す『クエリ』の処理能力でいうと、1秒間に1000クエリ以上を余裕で処理できる。この性能によりほかのエンジンの処理能力の10倍を超える実績も数多くある。また、インデクシングと呼ばれる情報の取り込み速度も同様に非常に高速だ。具体的な事例を挙げると、全国チェーンのネットスーパーにおいて、従前のシステムでは1時間を要した全店ベースの膨大な在庫反映のインデクシングを数分に短縮した。サイト内検索の世界に万能のロジックなどはなく、カギとなるのはエンジンの速さだ。その点さえ優れていれば、ケースバイケースで持ち上がるどんなアイデアでも実現できる。さまざまな顧客に選ばれてきた理由であり、年間継続率95%の高さに裏付けられている」

口コミと商品を結ぶ「ハッシュタグ」投入

 商品検索と並ぶ主力製品が、口コミの投稿管理を実現するレビューエンジンだ。同社のツールを導入しているファッションブランドのアダストリア(2685)は、近年EC売上が急拡大している。そのサイト(「ドットエスティ」)は、情報量が豊富で詳細な絞り込みに対応した商品レビューに定評があるように、ZETAの技術は多くのプレーヤーを陰で支える。また、新たに投入した「ZETA HASHTAG(ハッシュタグ)」も大きな可能性を秘めるという。

 「レビューはECサイトにおける消費者発の『ソーシャル情報』だ。用意された宣伝文句よりも信ぴょう性が高い場合が多く、それゆえ購入の決定要素になる。いまやカスタマーレビューを持たないサイトは成功できないとさえ言われており、ここでもわれわれのツールが活躍する。多様な絞り込み条件や評価項目を備えたレビュー機能を柔軟に実装できる。もちろん検索エンジンの優位性により構築した顧客基盤がモノを言う」

 「そして、検索やレビューなどの橋渡しとなるのがZETA HASHTAGだ。これは、特定のキーワードを付与する『ハッシュタグ』を用いたエンジンで、商品と商品、商品とレビューを結び付ける。サイジニアが得意とするAI(人工知能)解析の技術によりキーワードを抽出し、ハッシュタグを通して関連商品を探し出す。また、その組み合わせを活用したランディングページ(ユーザーが外部から最初に訪れるWebページ)を自動で生成し、キーワードにひもづいた商品情報や口コミ情報を掲載できる。ユーザーの回遊性(注2)とSEO(注3)の向上に寄与する仕組みだ。既に複数社が導入へ向けて動いている。顧客の要望を起点に製品化にこぎつけたサービスであり、私の経験上そういうプロダクトはヒットする」

注2・ユーザーがサイトに留まる時間

注3・自然検索による検索順位を上げる取り組み=検索エンジン最適化

「新規事業」にも意欲、株価上昇はまだ初動

 来期以降のビジョンについて山崎社長に尋ねると、「完全な新規事業」という言葉が返ってきた。気になるその内容は?

 「いわゆる『BtoBtoC(企業の対個人サービスの支援)』がZETAのビジネスの大半だが、いずれは新規領域であるBtoCに乗り出すつもりだ。他社にツールを提供するだけではなく、じかに消費者と接するマーケティングを手掛けていきたい。残念ながら詳細はまだ話せない。ただ、既存事業を通じて集積した膨大な口コミデータがこれからのクッキーレスやWeb3時代に活用され得るということがヒントになる。ただ、どのようなサービスであれ現在の顧客と競合するのではなく、さらにプラスとなる形にする」

 デクワスの収益改善にZETAとの統合により、一気に業績拡大フェーズに突入したサイジニア。今後はコロナ後のリオープン(経済活動再開)に伴い、店舗とECのOMO(オンラインとオフラインの融合)推進サービスも本格化が期待される。底値圏からの反発色が強まり始めた株価は、まだ初動の段階だ。

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