米債務上限問題で混乱する金融市場、どうなる為替市場? 外為オンライン・佐藤正和氏

為替

サーチナ

2023/6/1 12:58

 米国の債務上限問題が大筋で基本合意に達し、下院を通過した。為替市場はやや落ち着いたものの、依然として1ドル=140円前後の高値圏で推移している。今後の議会審議でどんな展開になるのか……、いまだ不透明感も残っており予断を許さない状況ではある。そんな中で為替はどう動くのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに6月の為替相場の見通しを伺った。

債務上限問題が今度は議会でくすぶっていますが……?

 債務上限問題をめぐる議会での法案採決に不透明感が出ています。共和党強硬派議員のグループは、デフォルト回避を目指したホワイトハウス当局と合意したマッカーシー下院議長に対して「報復」するとまで言及しています。共和党保守強硬派の下院議員連盟である「フリーダム・コーカス」のメンバーらも揃ってマッカーシー議長を非難しています

 こうした状態で無事に法案が下院を通過したものの、上院も通過できるのか。いまだに不透明感が残っていると言わざるをえません。これまで米国債が債務不履行(デフォルト)に陥ったことはなく、万一デフォルトになれば世界経済全体に深刻なダメージを与えることになります。

 とは言え、期限と言われている6月5日までに議会で法案が通らなくても、即デフォルトと言うわけではなく、最初はパスポート発給といった政府機関の閉鎖や連邦職員の自宅待機等の回避策が段階的にとられてからのことになると思われます。最終的に法案は上院でも可決されると思いますが、最後まで予断を許しません。そういう意味では、まだ少し時間があると考えていいでしょう。

ドルが強い傾向が目立ちますが、6月もこの傾向は続くのでしようか……?

 5月はあっという間に1ドル=140円台を突破するなど、ドル高円安が目立ちましたが、その背景には米国の金利高があります。6月13日-14日には「FOMC(米連邦公開市場委員会)」の開催が予定されていますが、いまのところ「0.25%」の利上げが予想されています。つまり、米国の金利はいまだに上昇を続ける可能性が高いということです。

 さらに、日本銀行の植田和男総裁は金融緩和政策継続発言以降も、市場が想定していたよりもハト派的な姿勢が目立ち、円安に拍車がかかっているという状況です。5月30日には財務省、金融庁、日銀が3者会合を開いて、急速に進む円安にどう対応するかが話し合われた、と報道されています。しかし、そのニュースで円高に揺れたのも一時的なものでした。以前のように、為替介入まで踏み込むかどうかは不透明ですが、私はその可能性は低いとみています。

 安易に為替介入を繰り返すと効果がなくなるだけではなく、「為替操作国」というレッテルを張られてしまうことは避けたいはずです。とはいえ、米国のインフレはまだ続いており、FOMCの金利引上げも6月で打ち止めになるかどうかは、今後の経済統計の行方を見る必要があります。最終段階に近づいてはいるものの、まだ利上げはあるかもしれない、ということです。

金利上昇打ち止めのサインとは?

 とりあえず、定期的に発表される経済統計には常に注目する必要があります。たとえば、6月2日には米国の雇用統計が発表されますが、同統計のサプライズには要注意です。非農業部門の雇用者数では予想が19万5000人(4月は25万3000人)増、失業率の予想は3.5%(同3.4%)となっています。

 仮に、雇用者数が10万人を下回るような数字になれば、FOMCの金融政策にも影響をもたらしてきます。景気の悪化が顕著になれば、金利を上げて引締めをする理由がなくなりますが、逆に予想を大きく上回る雇用者数や求人件数が出てくれば、金利引き上げは7月以降も継続する可能性が出てきます。

 6月15日に開催されるEU(欧州共同体)のECB(欧州中央銀行)理事会では、やはり0.25%の利上げが予想されており、インフレの波は米国だけにとどまっていません。6月22日に開催予定のイングランド銀行の金融政策委員会も、今回は様子見ではないかと予想されていますが、7月以降はまだ不透明です。

 相変わらず、ウクライナ・ロシアの戦いが激化しており、合わせて原油価格や資源価格などが上昇している中で、世界の物価はまだ落ち着きそうもありません。世界でいまだに、金融緩和を続けている「円」が売られるトレンドは続きそうです。

また円高に戻る可能性はありますか?6月の予想レンジを教えてください。

 世界がいまだ金融引締政策を続けている中で、相変わらず日銀だけが金融緩和政策を続けているわけですが、一時はインフレの鎮静化でドルが売られて円高が進みました。しかしながら、円の1ドル=125円割れは難しく、この傾向は今後も続く状況と言っていいと思います。かつての「120円割れ」といった円高局面は当面ないかもしれません。6月15日-16日に予定されている日銀の金融政策決定会合も、金融緩和政策の継続という姿勢に大きな変化はないと思われます。6月の予想レンジは次の通りです

●ドル円……1ドル=137円-142円

●ユーロ円……1ユーロ=147円-153円

●ユーロドル……1ユーロ=1.05ドル-1.12ドル 

●英国ポンド円……1ポンド=170円-177円 

●豪ドル円……1豪ドル=89円-92円

6月の取引で注意すべき点は何でしょうか?

 現在の為替相場は、とりあえず米国の債務上限問題がきちんと解決されるまでは、変動幅の大きな荒れた相場になることが予想されます。オバマ政権時代の債務上限問題のように、デフォルトしないにしても格付け会社が米国債を引き下げるような事態があるかもしれません。そういう意味では、今後しばらくは注意が必要です。

 実際に、大手格付け会社のフィッチ・レーティングスは、5月24日に米国債の格付け見通しを、これまでの「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。最も信頼度が高い「AAA」の格付けそのものは維持したものの、将来の格下げを示唆した形になります。すでに、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)は以前から、最上級からワンランク下の「AA+」に格付けしています。米国国債の格付けが下がれば、当然ながらドルが売られることになります。

 その一方で、シカゴの為替先物市場では、ドルロング(買い)のポジションが積み上がっています。今後、その巻き返しがあるかもしれませんが、一方的な思い込みだけで取引せずに、細かな売買を繰り返すことが大切です。先行き不透明な局面では、こまめな利益確定を心がけることです。ポジションも抑え気味にして、こまめな取引を心がけましよう。

(文責:サーチナ)

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